満足度★★★★★
初KAKUTA/アイロニーの夜
KAKUTA初体験は『アイロニーの夜』から。
フライヤーに記載のあった4つの短編小説を、朗読とそれに同期した演技によって表現する試み。
各話の読み手のチョイス、配役、演出…あらゆる点で申し分なかった。
4話とも、セリフやエピソードの付け足しもなければ割愛もなく、過剰なショーアップも控えられ、ほぼ、というか、完全に原作通り。
にもかかわらず、原作の世界が朗読と演技によってとても豊かに表現されていた。
原作を全て読んでから観た私が、展開が分かるにもかかわらず楽しめたのは、演出家、さらには読み手と演者の技量の賜物と言っていいだろう。
とりわけ感心させられたのは演出の桑原裕子によるキャラクター造形。
『神様 2011』のクマは一体どう表現されるのか?
これが観劇前からの一番の懸念事項だったが、人間界に暮らし、人と会話もできる擬人化されたこのクマは人間にもクマにも見えるよう見事にスタイリングされていたし、『テンガロンハット』のキーパーソンと言うべき青年・山田はその掴み所のなさが配役の妙も手伝って巧みに表現されていたし、『炎上する君』のブ女子コンビはメイクさんと衣裳さんが演出家の注文に応え原作で示されている通りのルックスを完璧に具現化している上、演じ手の桑原裕子と異儀田夏葉がブ女子コンビの無愛想さ、ぶっきらぼうさを適切な役作りで上手く醸し出し原作通りの滑稽味を漂わせていて、キャラ造形については文句のつけようがなかった。
各作品の持ち味を顧慮して選ばれた役者たちによる朗読も素晴らしい。
不気味なところもあるものの、どこか微笑ましく温かい『テンガロンハット』は柔和な雰囲気を持つ四條久美子が笑顔を絶やさず優しい声音でやわらかく読み上げ、容姿に恵まれない女子2人が自分たちだけを信じて力強く生きるお話『炎上する君』はよく通るハスキーな低音ヴォイスが魅力的な高山奈央子が「男なんて!」と突っ張って生きる女子2人の物語を作品に相応しい落ち着いた語り口で迫力を伴って読み聞かせる。他2作品も読み手のチョイス、読み方ともに適切だと感じたが、私は特に上記2作品の朗読に心惹かれた。
そして忘れてならないのが、“アイロニー=皮肉”というテーマと4作品の相性。『神様 2011』だけが人間と国家の間に生まれる皮肉を描き、人間と運命の間に生じる皮肉を描いた他の3編と趣を異にしていて、その点だけが少し惜しまれるが、どれも皮肉の利いた話であることに間違いはなく、お陰で、個々の作品だけでなく、全体としてもとても楽しめる一作に仕上がっていた。
各作品の合間合間に断片的に演じられるオリジナルストーリーもテーマに即しているうえ上々の出来。
『神様 2011』を除く3編とこのオリジナルストーリーは間合いに重きを置く桑原演出によりクスクスと笑える仕上がりになっていて、その辺も見所。