満足度★★★★★
Zero Projectミュージカル『リズミックタウン』を二度鑑賞しました!
Zero Projectミュージカル『リズミックタウン』を二度鑑賞しました!
ダボは,若い時魅力的な革命家だったが,貧しさゆえに,妻を死なせ子どもを施設に預けてしまった。病気の妻を救おうとして,ドロボーまでしてしまったのに。このことを隠して生きるダボは,犯罪のない街・リズミックタウンでサンタをやっていた。施設に預けた娘リンは,結婚し,離婚したものの気丈にも,女手ひとつでダボの孫にあたるメイを育てている。彼らの生活を,遠くから見守るダボは,一方でいつ過去の事件が暴かれ,刑務所ゆきになるか毎日不安でならない。
リズミックタウンは,二度観た。一度めでは,刑事が30年前の窃盗事件をなぜかようにネチっこくダボに話して聞かせるのかピンとこなかった。そのために,演劇の流れがつまらなく感じた。ところが,ストーリーが完全にわかると,この刑事とダボのシーンが,もの凄く重要であることに気が付く。ダボは,刑事に過去を暴露されると,大切な子どもたちとのクリスマスができなくなるのだから。そのようにして,ダボ役を観察すると,確かに下條アトムの表情はひどく歪んでいたのだ。
ハンスとカーナは,些細なことで,離婚の危機だ。彼らには,明るくやんちゃなテールがいる。妻が思うには,ハンスは,とんでもないマザコンだ。夫が思うには,妻こそが,テールをマザコンにしようとしている。彼らは,結局,テールが二人をさばき,その声に反応し,離婚を思いとどまったようだ。病気から,回復した一人息子を囲んで,ハンスとカーナの歌うクリスマス・ソングは,心打つ。とても良くアンサンブルしている。この家族愛の復活を,妖精たちは祝福し,全員で大きなうねりとなる。会場全体が,美しい歌声に満ちて素晴らしい演出だった。
リンと娘メイは,このストーリーの主役だ。メイは,どこか母リンに冷たい。実際に彼女を育てたのは,自分たちを理由はなんであれ捨てていった父親ではない。しかし,そのことをあまり非難せず,娘メイは,父親の胸に飛び込んでいった。このあたりは,実際そういうものかもしれないが,私は,母リンに深く同情する。
もう一度繰り返すと,最初に,下條アトム演じるダボの苦悩に共感した。次に,多少安易に夫婦ケンカがおさまり過ぎたとはいえ,そこで到達したシーンは,非常に美しくできていた。おそらく,ちいさな子どもたちが,あれほどの数で熱唱しているのが人々の心に響いたからであろう。最後に,姿月あさと・リンの歌唱力が,ミュージカル全体を引き締めていた。メイもがんばっていたが,ちらちらとそこにからむピース役が,結構光っていた。いずれにせよ,思いのほか良作であった。クリスマス・キャロル,素晴らしき哉人生,とかと並ぶ傑作だった。