満足度★★★★
凄絶な音楽を引き立てる明快な演出
近年オペラ界で流行りの読み替え演出ではなく衣装も古風で、シェイクスピアの物語世界に違和感なく入り込めました。
床に広げられた大きなイングランドの地図を分割して姉妹達に分け与える所から始まり、姉妹3人の衣装や照明に赤、青、白とテーマカラーが割り振られ、各場面が分かり易く描かれていました。
変に現代との共通性を示す様な趣向を盛り込んだりせず、オーソドックスな表現に徹することによって、愚かな人々の悲劇の普遍性が鮮やかに立ち上がっていました。
道化役は歌手ではなく、ダンサーが演じていて、軽い身のこなしやオペラ的でない素朴な歌唱法が素晴らしい効果を挙げていました。
とても難しい曲なので仕方がないのですが、第2幕中盤からプロンプターの歌の出だしを指示する声がずっと聞こえていて、集中力を削がれてしまって、残念でした。
クラスターやグリッサンド、微分音を多用した、軋むような暴力的な響き、あるいは息の詰まる様な静かな響きが続き、古典オペラの様な美しい旋律は皆無ですが、荒廃していくリア王の心象にマッチしていて、劇的な効果をあげていました。
舞台手前のオーケストラピットは弦楽器が占め、この公演の為にわざわざプロセニアムアーチを撤去して(下地の鉄骨が見える状態でした)管楽器と打楽器を舞台の両脇に配置することで、歌声が楽器の音でマスキングされることがなく、聞き取り易かったです。
下手奥から上手手前に傾斜している床面に、回り舞台や出入り口が気付かない様に仕込まれていて、それらが使われた時のインパクトがありました。
後方の壁が両側に開いたり、上に持ち上げられたりしてその奥から登場する様子がドラマテイックでした。