満足度★★★
動機付けが足りない
弱小プロレス団体・新宿女子プロレスの物語。
4作目にあたるという本作は、代表者のアキラがレフリーからレスラーに転向し、団体を立て直そうと奮闘するが、それをきっかけに様々なトラブルを抱え込むというストーリー。
全体にスラップスティック色が強く、イタコを祖母に持ち物故したレスラーを口寄せできる恐山出身の選手をはじめ個性派揃いのメンバーがリングの内外で揉み合う様子は愉快痛快! 肩の力を抜いてドタバタ騒ぎを楽しんだが、いくつか難点も。
まず、演技が一本調子。レスラーを演じる9人は最初から最後までほぼハイテンションを貫き続け、しかも間(ま)というものをほとんど取られないため、ぶっちゃけ観ていて消耗。バーのくだりなどのコミカルなシーンが大ウケを取れずに終わったのも間(ま)と抑揚の欠如によるところが大きいのではないか?
次に、いずれの登場人物にも奥行きが感じられない。彼氏とのデートのシーンなど、試合着も練習着も着ていない普段着の彼女たちも描いていれば登場人物それぞれにもっと深みが出たように思われる。しかし、それをしなかったがために、「プロレスは人生だ。人生はプロレスだ。」との文言がチラシにあるにもかかわらず、彼女たちの“人生”が見えてこなかった。
試合のシーンはショーアップ不足。本物のレスラーさながらに闘うのは土台無理なのだから、足りない分はダンスを交えるなどして“趣向”によって補うべきだった。ダンスを絡めて試合を見せるという趣向がない代わりにダンスシーン自体はいくつか設けられていたものの、惜しむらくは動きがバラバラ。統制の取れたダンスは女子プロ団体という傾奇者集団にはそぐわないということなのか、動きを綺麗に揃えることをあえてしていなかったが、ダンスシーンは演劇というショーの一部と割り切り、不自然さに目をつぶってでも動きは揃えるべきだった。
試合のシーンに物足りなさを感じたのは観劇環境にも一因があるかもしれない。普通の演劇のようにステージと客席を向かい合わせに配置するのでなく、舞台中央にリング兼ステージを設け、四方を客席で取り囲む形にしたら本物のプロレス観戦さながらの気分が味わえて臨場感が増したかも。
それより何より、一番の問題点は物語の肝となる出来事がどれも動機付けに乏しい点。これについてはネタバレに詳述する。