旅のしおり2013 公演情報 ブルドッキングヘッドロック「旅のしおり2013」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    肝腎のものが伝わって来ず
    ある女の、逃避行という名の旅の記録。
     逃げる端緒になった出来事をなぜ女が起こしたのか、その動機が説得力を伴って伝わってこないので、いまひとつ劇世界にのめり込めなかった。

    ネタバレBOX

     それは、交際相手を殺害してから10年間、整形と改名を重ねて逃げ続ける主役の女がエア状態で表現されていたせいだけではないだろう。
     女は透明人間のようにして舞台上に存在し、無人の椅子がとつぜん向きを変えたり、女が居るらしき方向へ向けて他の人物が語りかけたりすることからその存在が暗示されるのみで、女を演じる役者は舞台上には存在しない。
     つまり、女は自ら言葉は発さず、その発言は対話者の受け答えから推察するほかないのだ。
     ならば、2人の刑事をはじめとする他の人物同士のやり取りから犯行動機を浮かび上がらせるべきだが、当パンには「動機は不明」とはっきり記され、劇の作り手自身が動機に無関心であり、はなから解き明かす気も、動機に迫る気もないことがうかがい知れる。
     本作が吸引力に欠けていたのは、謎を謎のままに放置し、それで良しとしてしまう作り手の姿勢によるところ大。なぜ殺したのか、動機をほのめかすくらいのことはせめてするべきだった。
     謎めいているからこそ魅力を放つ。
     主人公はそんなタイプの女だとはいえ、謎が少しも明かされないんじゃ観客は鬱憤が溜まるばかり。
     もちろん、主人公を魅力的な存在であらしめるにはいくらかの謎は残すべきだが、本作の主人公について言えば未解明の謎が多すぎた。
     登場人物の一部を「透明人間」として表現する“エア演劇”は劇団フルタ丸『匿名家族』以来、何作か観ているものの、本作の主人公ほどエアで表現される必然性の高い登場人物にはこれまで出くわさなかっただけに、上述の欠陥は大変に惜しまれる。
     それから、笑えそうで笑えないシーンが多かったのも心残り。
     中学時代の主人公の修学旅行時のエピソードなど、当作には本筋と関連の薄いシーンもあって、主人公を含む女子6人組が旅館でパンティを盗まれるくだりなどは自由に遊べるシーンなのに、このシーンですら爆発的な笑いは起こらず、観ているこちらはモヤモヤ。
     作・演出の喜安浩平は師匠のケラリーノ・サンドロヴィッチほど笑いへの執着が強くはないのか、上のシーンをはじめとするコミカルなシーンはほとんどがコミカル止まりで、実際に大笑いを誘うまでには至っていない。
     というわけで、初観覧のブルドッキングヘッドロックでしたが、今後も観続けるかは微妙。
     ただ、劇の組み立てはびっくりするほど巧かった。

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    2013/10/15 10:51

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