30才になった少年A 公演情報 アフリカン寺越企画「30才になった少年A」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    アフリカン寺越の血管
    選んだテーマの大きさにひるむことなく
    アフリカン寺越の、こめかみの血管が切れそうなほどの直球勝負。
    このストレートさが、複雑な現実からシンプルに太い動脈を取り出して見せる。
    上から”更生させる者”が登場しないことで”更生しようとする者”の目線が際立った。
    理不尽でも自分勝手でも、リアルな叫びから血の通った人間像が立ちあがる。
    店長、あなたに彼を殺すことはできない。

    ネタバレBOX

    舞台正面にずらりと並んだ漫画本。
    上手に文机、きちんと置かれた描きかけの漫画と筆記用具、インク。

    新聞店に住み込みで働く30才の男(アフリカン寺越)の部屋。
    彼は14歳のときに自分の漫画をけなした同級生を橋の上で突き飛ばし死なせた
    という過去があり、3年前この町に戻って来た。
    同僚の男(中川拓也)もまた、強制わいせつの犯罪歴がある。
    新聞店の店長(末廣和也)は彼らの過去を承知で雇っている。

    30男を見かけたとやって来る元保護司の女(橋本亜紀)、
    同僚の彼女(森由月)らが次々とこの部屋を訪れる。
    そして町の噂で“人殺しがいる店”で働きたくない、と辞めて行く他の従業員。
    自分が原因だと、この部屋を出て行く準備をしている30男に
    「橋の上から突き落としてお前を殺してやりたい」と迫る店長、
    「人を殺した僕はいつか誰かに殺されるんだろうと思ってました」と答える30男…。

    “スキンヘッドに目力ありまくり”という風貌のせいばかりでなく
    アフリカン寺越の存在感が際立つ舞台。
    刑務所のような部屋の整理整頓ぶりや、同僚カップルに対する
    「過去は過去、今やってないなら何にも問題ない!」という言葉、
    あの日喧嘩の原因となった漫画を今も描き続ける姿に
    彼の“やり直すのだ”という切なる気持ちがあふれている。
    意識していないかもしれないが、そうせずにいられない、どこか切羽詰まった日常。
    「もしあの時…だったら」という彼の慟哭のシーン
    私たちの「あ~あ、もうちょっと…だったら良かったのになあ」という
    “日々の残念”の延長線上に、犯罪の偶発性と危険があることを意識させて秀逸。

    「いつ帰って来たの」とやって来た元保護司が上手い。
    オーバーアクト気味の演技と無遠慮な言動から、
    最初は“噂好きな世間代表”みたいなキャラかと思ったが
    立ち直って欲しいあまり平手打ちをしたことから保護司をクビになった熱い人で
    今も彼の理解者であることがじわじわと伝わって来る。

    互いの過去を打ち明け合った同僚カップルのエピソードが良かった。
    犯罪当事者でさえ、
    “自分の過去は受け入れて欲しいのに他人の過去は受け入れ難い”という現実。
    まして犯罪者に縁のない世間の人々はどうか、容易に想像がつく。
    ぐだぐだ迷う同僚の男がとてもリアルだった。

    以下、私の希望的結末…。
    店長を頼ってこの街に戻って来た30男に、終盤
    「殺人者が怖かったから当り障りなく接していた」と告白する店長、
    それは嘘ではないだろう、でもそれだけではないはずだ。
    この3年間、店長は過去に罪を犯した者を雇って一緒に仕事をしてきた。
    更生とは「自分を信頼してくれる人に応えたい」という気持ちだと思う。
    彼らのその気持ちが仕事を支えて来た、その事実に店長は気づくべきだしきっと気づく。
    犯罪者であってもなくても、「信頼してくれる人に応える」生き方は同じじゃないか。
    もう一人過去に罪を犯した者を雇って、みんなで信頼し信頼される仕事をしよう。
    それが“更生を信じてもらう”唯一の方法だ。

    漫画を段ボールに詰めるアフリカン寺越の姿を見ながら
    「絶望するな」と叫びたい衝動に駆られた。
    教育論、更生哲学を持ち込まずにストレートな台詞で魅せる企画、素晴らしいと思う。

    アフリカン寺越、あなたの別の顔、別の台詞も観てみたくなった。

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    2013/09/27 13:00

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