カルナバリート伯爵の約束 【池袋演劇祭‘優秀賞’受賞】 公演情報 メガバックスコレクション「カルナバリート伯爵の約束 【池袋演劇祭‘優秀賞’受賞】」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    できない約束
    車両事故の現場で監視に当たる二人の兵士が上官から受けた謎の指示。
    「応えるな、出るな、信じるな、そしてどんな小さな約束もするな」…。
    設定がシンプルな分、心情がくっきりと浮かび上がって感情移入しやすい。
    登場しないカルナバリート伯爵のエピソードが実にうまく機能している。
    3年ぶりの再演に感謝したいと思う。

    ネタバレBOX

    1953年9月、大雨によるがけ崩れで列車が脱線、崖下に転落した車両事故の現場である。
    下手には折れた大木とその手前に白く囲われたサークル、
    正面から上手にかけては傾いた車両らしいハコが横たわっている。
    床は混乱した現場らしくでこぼこしている。
    下手に2カ所、正面車両の奥、上手車両の奥も出ハケが出来そう…と思っていたら
    車両の下から人が這い出して来てびっくりした。

    上官の命令の意味が判らないまま、塩で囲われたサークルの中にいる2人の兵士。
    彼らが告げられた命令からして、もう謎だらけでいきなりつかまれる感じ。
    やがてさっき2人で収容した遺体と同じ格好の人物が次々と現われて
    2人は驚愕、パニックになるが、彼らの会話を聞いているうちに
    死者の魂は朝までその場にとどまり、朝になると向こうの世界へ旅立つらしいと判る。
    そして国や軍が隠そうとする事故原因が明らかになるにつれ
    兵士は命令と自分たちの役割に疑問を抱き始める。
    命令に背いてサークルから踏み出し死者たちと語り合い、仲良くなる2人。
    だが死者たちの本当の目的は別にあった…。

    役者がマジでつまづくほど混乱した現場がリアルに作られている。
    小さな舞台にこのセットを組み、車両の下に人が入れるスペースまで作ったのに驚く。
    時間軸のずらしとか、生死の逆転とか、凝った仕掛けがなく
    比較的シンプルな設定であるだけに、登場人物の心情が丁寧に描かれる。

    私たちは、出来ない約束に縛られながら生きている。
    死んだ人たちや家族、職場、そして自分自身に課した約束=“ねばならぬ”に。
    約束に固執する死者たちの気持ちが、切羽詰まって怖ろしくも哀れだが
    そこから逃れるのではなく、出来ること出来ないことを見極めた上で誠実でありたいという、
    作者の真摯な気持ちがストレートに伝わってくる。

    兵士バロンを演じた新行内啓太さん、
    揺れに揺れた末の決断に人間味が溢れ、誠実さが台詞ににじむ。
    出来過ぎの台詞でもこの人が言うと、このテの展開に泣かないはずの私が
    思わずうるっと来るから不思議だ。
    キャラ作りが巧みなのか、新行内さんの素のキャラか…。

    兵士アーツを演じた日比野線さん、
    心境の変化にメリハリがあってとても良かった。
    軽妙さと真面目さを併せ持つ人物像が鮮やか。

    元軍人を演じたキリマンジャロ伊藤さん、
    ちょっとくたびれた味わいがあり若い人の中で光っていた。
    “出汁の効いた”台詞が素晴らしい。
    ザック長官(星祐樹)との謎の過去についてスピンオフが出来そうなほど
    奥行きを感じさせるキャラクターだ。

    謎の少女エーデルを演じた本橋舞衣さん、
    透明感があって雰囲気はあるが、声が聞きとれない。
    空調の音に負けてしまって残念。

    2010年の初演から約3年、この間には東日本大震災や福島の原発事故、
    そして中国では“事故列車の埋め戻し”などもあった。
    国や企業のやることは昔からどこも同じ、と言ってしまえばそれまでだが
    あまりにもこれから起こることを予測していたようで
    今この作品を再演する意義を強く感じる。

    全ての魂は、生きている人々と約束したがっているという。
    ならば私も、バロンのように応えられたらと思う。

    あなたのことを決して忘れません。
    ちゃんと生きていきますから、ずっと見ていてください。
    それを約束します、と。

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    2013/09/14 05:02

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