蝶を夢む 公演情報 風雷紡「蝶を夢む」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    時代を”奏でる”作品
    萩原朔太郎の詩集から取ったタイトル、
    終戦から3年後の帝銀事件を扱ったストーリーと設定はもちろんのこと、
    セット・衣装・音楽など全てがあいまって“時代を奏でる”よう。
    客入れの時のBGM、たどたどしいピアノの「野ばら」が哀しい。

    ネタバレBOX

    開演前、ふと顔をあげて舞台を見ると
    ロッキングチェアにセーラー服の少女(吉永雪乃)が座っている。
    正面にはレースのカーテンが下がる小窓が3つ並び
    手前にテーブル、その横にロッキングチェアが置かれている。
    少女は本を読んでいたが、やがて畳んだ赤い着物を大事そうに抱え、抱きしめた。

    開演後、険しい表情の小笠原芙美子(堀奈津美)がぶどうの入った器をテーブルに置く。
    4人の女中たちが入って来て、全員がぶどうを食べた。
    次にワイングラスが配られ、男がワインを注ぎ、女中たちは
    女主人の「乾杯!」の声に導かれて一気にそれを飲み干した。

    暗転の後、毒殺事件後の現場で二人の刑事が話をしている。
    芙美子は助かったが女中たちは全員死亡。
    やがて犯人は女中の一人、智恵子の父親の医師であるとされた。
    だが刑事の山村(山村鉄平)は芙美子に仕えてぶどうを作る男
    弘行(祥野獣一)が気になる。
    戦時中大陸で毒薬の研究に従事していたという彼の経歴が明らかになったからだ。
    事件は疑われていた医師の自殺で一件落着かに見えたが
    実は娘を亡くした、いや殺された母親の復讐劇であった…。

    毒殺事件の捜査と、娘を喪うに至る過去の経緯が交互に描かれ
    次第に事の真相が明らかになって行く。
    コロンボ形式で犯人側から事の顛末を見せるため、
    サスペンスや謎解きの面白さはないが、芙美子の内面に迫る迫力がある。
    母親から愛された記憶の無い芙美子が、娘にどう接して良いのか戸惑ううちに
    叔父である伯爵の陰謀で小笠原家当主となる10歳の娘は殺されてしまう。
    全てを知った芙美子の冷たい決断に大きな説得力があり、
    叔父への残酷な復讐にも共感を覚えてしまう。

    セットやシューベルトの「魔王」、朔太郎の「蝶」のイメージが効果的。
    冒頭の出演者紹介の映像なども時代を感じさせるテイスト。
    出演者が口ずさむ歌も美しく哀しみを誘う。

    一つ気になるのは探偵野崎(谷仲恵輔)の役回り。
    前作で探偵と下宿のお駒との掛け合いが面白かったから
    谷仲さんの出演に“シリーズもの”になったのかなと思ったが
    今回探偵は大して活躍しない、「?」な人となってしまった。
    スピンオフにゲスト出演で顔を出したという感じだったのか。

    また前回も感じたのだが、谷仲恵輔さんの“声よし”を強調するあまり
    プロレスみたいに、登場の時大仰な詩の朗読をするのはどうだろう?
    何だか信長の「越天楽」(♪人間五十年…)に聞こえてちょっと違和感を覚える。
    ドラマチックかもしれないが、“調子で読む”と作品の儚さが失せてしまう。
    ラスト芙美子を訪ねて「蝶を夢む」を詠んだ時はとても静かで美しかったので尚更。

    芙美子を演じる堀さん、サイテーな伯爵を演じた市森さん、
    立ち姿も美しく台詞のテンポが時代の風を感じさせてとても良かった。
    弘行役の祥野さん、優しく忠実なキャラが台詞に溢れている。
    女中さんたちの仕草やお辞儀も隙がなく、後半の心理的変化もわかりやすかった。
    シアター711の作りを活かした廊下を走る音や、
    繊細な照明の効果が抜群で、緻密な作品になっている。

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    2013/08/18 10:04

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