満足度★★★
髪の怖さが印象的な『四谷怪談』
有名な怪談の通し上演で、虚仮威しの怖さではない、人間の心の怖さが感じられる作品でした。
序幕は怖い要素はなく、男に騙された姉妹の姿がテンポ良く描かれていました。
二幕目では病気で弱っているお岩が薬と偽られて毒を飲み、醜い顔になって嘆く過程がじっくりと描かれていて、切なさと怖さが伝わって来ました。
三幕目は川辺で幽霊に遭遇するエピソードが描かれるものの冗長さを感じました。
大詰では伊右衛門がお岩との幸せに暮らす夢が、蛍を模した照明の中で幻想的に描かれ、お岩の幽霊が祟る様子を様々な仕掛けを用いた演出で描いた中盤が対照的に引き立っていました。
お岩が毒を送った相手を復讐しに向かう前に髪を前に垂らして櫛で梳くシーンや、魚を捕ろうとして銛を川に入れると髪の毛がまとわりついているシーンがとても不気味でした。
話が進むに従って次第に照明が暗くなっていき、歌舞伎では珍しい完全暗転があったのが印象的でした。
尾上菊之助はさんは3役を時には早替わりを用いつつ演じ、見応えがありました。お岩の恨み節の時の倍音が良く響いた声色が魅力的でした。
中村小山三さんは92歳という年齢を感じさせない溌剌とした演技で楽しかったです。