紙風船文様 Vol.2 公演情報 カトリ企画UR「紙風船文様 Vol.2」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    「結婚っていいな」と思わせるような作品
    岸田國士の戯曲『紙風船』を同じ役者を使い、演出家を変えて上演する企画の第2弾。

    今回の演出家は、範宙遊泳の山本卓卓さん。

    1時間に満たない作品だけど、十分楽しめた。

    ネタバレBOX

    まず、劇場内に入り、セットの雰囲気が楽しい。
    模造紙のような白い紙を使って、椅子を包んで「イス」と書いてあったり、壁にドアを作ってあって「寝室」、役者の控え室のドアには「バスルーム」、正面の壁には「カーテン」「窓」、さらにトイレのドアには「冷蔵庫」と書いてあり、中に入ると「コーラ」と書いてある空きビンが置いてある。
    妻は、カーテンを開け、「服」と書いてある紙を干す。

    梁には「梁」、剥き出しのパイプには「水の音」、線路側の壁には「電車の音」、キッチンには「しゃもじ」と書いてあるしゃもじ、剥き出しのベニヤ板には「ベニヤ板」、そして、板付きで机に座る妻の手には「いんげん」と書いてある紙があり、まるでインゲンの筋を取っているように紙をむしっている。
    この「いんげん」には笑った。

    どうやら新築の家らしいし、さらに結婚1年目の夫婦の状況を表しているようなセットだ。まだ手垢が付いていないというか。
    これから2人で、色づけしていくというか。
    たぶんそんな感じ。

    1歩踏み込んだ解釈をすれば、イスに「イス」と書いてあるように、夫婦には「夫」「妻」という新品のレッテルが貼ってあり、そうすることでその「役割」を「演じている」ような感覚が少し残っている、そんな微妙な時期の、夫婦。

    公演が始まるまで、どこに何があるのか、いろいろと探しながらいるのも面白い。

    『紙風船』をきちんと現代にトレースした作品だった。
    中途半端にではなく。

    オリジナルの『紙風船』は、やはり昔の作品であり、そのままの台詞でももちろん結婚1年目の夫婦の様子をうかがい知ることはできるのだが、現代の観客にとっては、ある程度の「脳内変換」は必要だった。
    しかし、この山本卓卓・演出作品の「翻訳」具合が素晴らしい。
    手元にオリジナルの戯曲を持って観劇し、各台詞ごとに比べてみたいと思ったほど。

    とは言っても、「台詞の言い回しや語句」を「現代のもの」に、単に置き換えて、観客にわかりやすくしただけというのではなく、本来この作品の持っている空気感、結婚1年目の日曜日の感じ、までを含めて、きちんと現代に「移し替え」「翻訳」していたと言っていいだろう。

    そこでは原作をないがしろにせずに、『紙風船』という作品として成立させている。無理矢理に自分のほうへ持ってきたというわけでもない、その塩梅とセンス、技術には脱帽だ。
    品の良さすら感じてしまう。

    結婚1年目の夫婦の、なんとなくな倦怠感。新婚というほどでもないが、多少の初々しさもありつつの、「慣れ」な感じ。

    妻の求める結婚像と、夫がすでに感じている結婚観の微妙なズレ。
    それは、いいとか悪いとかではなく、最初からあったものだったが、「愛」みたいなもので隠されていたり、勘違いしていることで見えなかったもの。

    それが、生活をともにすることで、お互いの間にあった、美しい勘違いのというベールが少し薄くなってきた、というところではないだろうか。

    ただし、1年目なので、キャッキャ感みたいな、他人から見れば、「あ〜あ」的ななんともな、まあ「微笑ましい」状態もあり、鎌倉のくだりは、オリジナルの戯曲よりも鮮明に出ていたのではないかと思う。

    妻役の黒岩三佳さんの台詞回しがなかなか秀逸で、子どもっぽい夫に対して、やや冷めたというかクールな雰囲気なのだが、その根底にある眼差しに愛情を感じる。

    自分を直接的に押し出すことはしないが、夫に「察してもらう」ようにしむける台詞のニュアンスが伝わってくる。

    夫役の武谷公雄さんの、汗だくな一生懸命さは、夫である人(あるいはあった人・笑)には、経験があるのではないだろうか。どんなに亭主関白であったとしても、なんとか妻には嫌われたくないというか、気を遣ってしまうというか、そういう「健気さ」(笑)を感じてしまった。
    そいうは言っても、それは妻にはなかなか伝わらないだろうな、というのも実感的だ(笑)。

    なんともいい感じの、結婚1年目夫婦の、何も起きない普通の、ある日曜日が、見事に切り取られて舞台の上にあったのではないかと思う。

    そして「紙風船」。
    このマンションのような家で、それをどうやって出すのかと思っていたら、びっくりな展開。
    下手すると『クロユリ団地』(笑)なホラー感がしてしまうが、そのあとの展開がうまい。
    ここでも1年目夫婦のキャッキャ感で観客の頭の上の「?」を吹き飛ばしてくれる。

    ラストに「挨拶しよう」で、舞台の空気のまま観客席に向き合うというのは、虚構感を強調しすぎてどうかなとは思ったが、ひょっとしたら「終われなかった」のかなと思ったり。続きすぎて。

    山本卓卓さんが、独身なのか結婚しているのかは知らないけど、戯曲が本来持っている、そういう夫婦の間の機微をきちんと描き、さらに役者2人が、それを理解して表現してみせてくれた。

    本当に面白かった。

    「ああ、結婚っていいな」と思ってしまう作品だったのではないだろうか。たとえ、今、夫婦の状況がどんな状態にあったとしても、「あの頃」を思い出させるような作品。

    だから、シングルの人が観ると、ひょっとしたら「結婚したくなる」ような、そんな作品だったのではないだろうかと思った。

    2

    2013/07/24 07:15

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  • コメントありがとうございます。

    非常に面白かったですね。
    こんなにグッとくるとは思ってもみませんでした(失礼・笑)。

    次回は来年5月ですか、ずいぶん先ですね。
    でも、楽しみにしています。

    今回を超える作品に出会えるといいな、と。

    2013/07/25 05:28

    ご丁寧な、かつ機微を踏まえた的確なご感想、今回もありがとうございました。
    励みになります。
    次は来年の5月を予定しています(役者二人が売れっ子のためスケジュールを切ってもらうのが中々なところがあります(笑))。
    また、ご覧いただけるとうれしいです。
    ご観劇ありがとうございました。

    カトリヒデトシ

    2013/07/24 09:46

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