満足度★★★★★
マシュー・ボーン『ドリアン・グレイ』を,Bunkamuraで観た。
マシュー・ボーン『ドリアン・グレイ』を,Bunkamuraで観た。
パンフレットによれば,マシュー・ボーンは,イギリス人だ。現代バレエと,現代ダンスのいわばクロス・オーバーする分野で最高の仕事をし,高く評価されているようだ。ダンスを始めたのは,意外と遅い。22歳となっている。バレエでは,『白鳥の湖』『くるみ割り人形』も見える。ミュージカルでは,『オリバー』が目に付いた。振付家であり,いわゆる演出家でもある。1960年生まれである。
オスカー・ワイルドは,芸術作品には,倫理などはさほど意味もないと言い切っている。今回の上演作品には,原作『ドリアン・グレイの肖像』の名残は薄い。一番の変化は,肖像画を捨てて,カメラの世界に持ち込んだことだ。その方が,現代的な感じが出るからだろう。さらに,ドリアン・グレイが翻弄し,死んでいったロザリンド(シェークスピア)役が得意だった娘のイメージも一変している。しかし,バレエでもあり,ダンスでもあるマシュー・ボーン『ドリアン・グレイ』も確かに,本質としては,原作がきわめて忠実に生きている。すごいことだと思う。
作品全体で目立ったのは,ほとんど下着姿で大ベッドの周辺を動き回る男女の集団といった感じだ。だから,これをそのまま子どもに見せて良いものではないだろう。しかし,ショッキングな演出を越えるものは,そのダンスの精緻なこととか,スピード感だ。これが実現できる理由のひとつは,全員が鍛えられた身体を持ち,ものすごくエネルギッシュだからだ。普通のひとは,ほんの少しの演技も真似できない。しようとすれば,心臓が破裂してしまいかねない。
原作『ドリアン・グレイの肖像』は,私の読んだ印象では,さほど不道徳な物語ではない。むしろ,ロマンチックな点もある。しかし,オスカー・ワイルドは,確かに異常な世界が好きだ。『サロメ』は聖書からヒントを得たものかもしれないが,好きになった男につれなくされたから,王にクビをはねてもらいキスをするなどというクレージーな物語を平気で書く。さらに,作品を公開するにあたって,おそらく性倒錯作家として攻撃されやすかった人なのだと思う。でも,やっぱり『ドリアン・グレイの肖像』は傑作だと思う。
素晴らしいものが観られて良かった。これを越える感動は,また,一から探すしかないだろう。