満足度★★★
人形の様な人間と、人間の様な虫
フランツ・カフカの『変身』のマイム作品化で、虫になった主人公とその他の人々の演技スタイルを異ならせることによって、台詞を用いずに主人公の孤独な姿を描いていました。
有名な冒頭の前に、虫に成ってしまう前の多忙な生活や家族との団欒を描くプロローグが追加されていて、本編はかなりカットされながらも原作に沿って展開し、終盤に家族の団欒の回想シーンが挿入され、家族に酷い扱いを受けながらも家族のことを思いながら死ぬという構成で、終盤は原作に比べてドラマティックな盛り上がりがありました。
虫は毒々しい柄のマスクを被ってはいるものの動きは普通で、逆に周りの人間達が顔を白塗りにして人形振りで演技をしていて、主人公の思いの伝わらなさが強調されていたのが良かったです。
出演者の技術が安定していて、人形の様に動く奇妙な姿が印象的でした。マイムの定番技や手品も盛り込まれていて、エンターテインメントとしても楽しめました。
『現代のためのミサ』(P.アンリ)、『鏡の中の鏡』(A.ぺルト)、『無伴奏チェロ組曲』(清水靖晃)といった、2003年の初演当時の頃に話題となっていたクラシック・現代音楽系の曲が多く用いられていて、時代の空気感が出ていました。
しかし当時編集した音源をそのまま使っているらしく、ノイズが目立ち、曲の繋ぎ方もかなり荒くて、気になりました。今後も再演を続けるのならオリジナル音源から再編集した方が良いと思いました。