満足度★★★★
苦痛で歪み軋む身体
仮想空間内のリゾート地に暮らしているAI達が謎の存在と壮絶な攻防を繰り広げる1日を描いたSF小説のダンス作品化で、コンテンポラリーダンスの公演にしては長めの2時間半の上演時間でしたが、鋭い緊張感が保たれていて長さを感じませんでした。
原作は異なる章タイトルを含む4つのパートに区切られ、シーンの順番も入れ替えられていて、物語を見せるのではなく、印象的なシーンをヴォリュームを持たせて描くことに重点を置いた構成となっていたので、原作を読んでいなくても楽しめると思いました。
原作では「蜘蛛」、「官能素」、「硝視体」、「罠のネット」、といった、SF的趣向に富んだ概念による非現実的な描写が多いのですが、そのような独特の概念は用いずに、原作が持つ残酷でエロティックで美しい雰囲気が表現されていました。
舞台化どころか映画化やアニメ化も難しそうな、小説だからこそ表現出来るような奇妙な出来事が、ダンサーの身体だけで描写されているのが新鮮でした。
このカンパニーの今までの作品に比べて舞踏の動きのヴォキャブラリーが多く用いられていて、さらにアクロバティックな振付も多く、原作の苦痛に満ちたAI達の身体性がダイナミックに表現されていました。
複数のダンサーがユニゾンで踊る時に音楽をきっかけにせず、おそらく他のダンサーの動きをきっかけにしていてるらしく、微妙なタイムラグを伴いながら動きが伝播して行くのが印象的でした。
終盤では、奥の壁全面に投影されるモノクロの映像や、天井を青く照らすストロボ、細かく色が切り替わるLED照明を用いて、仮想世界が崩壊していく様子を表現していて、インパクトがありました。
サックスとエロクトロニクスを用いる黒スーツ姿の3人のミュージシャンによる即興的な生演奏がクールに緊張感を高めていて刺激的でした。終盤のサックス3重奏による讃美歌風の曲の時にチューニングが合っていなかったのが残念でした。