満足度★★
伊良部だって飛べるはず
宮迫博之、佐藤江梨子の競演で空中ブランコ。これは面白いかな?と思って、ちょっと高いけれど行ってみた。場所は池袋の東京芸術劇場・中ホール。
うーーーん、どうですかね、原作の方が大分面白いかな。
宮迫さんは初見ですけど、結構良い感じで伊良部を演じていたと思う。問題は脚本の方にあると思うのですね。何故かって、伊良部の活躍が今一歩だから。芝居だから、どうしたって主役以外の登場人物にも色々厚みを持たせなくちゃならなくて、おかげで主人公の伊良部の濃さが薄くなってしまうのは仕方ないんだけれど、それにしても脇役化が著しいというか、主役が完全に伊良部じゃなくなっちゃってるんですね。そういう脇役での伊良部ももちろん悪くはないんだけれど、「奥田の空中ブランコ」となって、主役が宮迫さんっていうのなら、嫌が上でも期待してしまうわけで。その期待を悪い意味で裏切られてしまったかな、という感じ。別に宮迫さんが下手なんじゃないんです。そこがまたもったいない。あとね、やっぱ、伊良部はデブじゃなくちゃね。確かに上半身裸になったときのしまりのない体は「ちょこっとデブ」って雰囲気がないわけじゃない。でも、あれじゃぁ駄目でしょ。どうせなら役作りのためにあと30キロは太って欲しかった。
佐藤江梨子さんは逆に、存在感がありすぎ(笑)。原作のマユミの良さは何もしないんだけど露出に目が行ってしまう、というところだと思うんだけれど、舞台では露出は抑え目、そのくせ色々活躍しちゃうので存在感はある、という感じ。こちらは原作のキャラをいじりすぎてしまって味をなくしてしまった感じがする。
と、メインの二人はこんな感じでちょっと演出、脚本上のマイナスが目立ったんだけれど、一方で演劇としてのストーリーはなかなかだったと思う。サーカスの中でのやり取りがかなりきちんと描かれていたので、物語が破綻しない。原作を読んでない人、原作のファンではない人には親切なつくりだったと思う。
が、それより何よりいただけなかったのは、この舞台のスピーカー設定。芝居の素人を揃えたにも関わらず箱が大きい、というのが理由なのかも知れないのだけれど、この芝居はマイク利用の芝居。マイク利用の芝居を一概に駄目だと切り捨てる気はないのだけれど、それがスピーカーを通して再現されたとき、音像が滅茶苦茶なのである。目をつぶって音だけを聞いていると、とんでもない方向から台詞が聞こえてくる。しゃべっている人は舞台の中央にいるのに、台詞は舞台の左端から聞こえてきてしまう。もちろんこれは座席の場所によるのだろうけれど(今回の僕の座席は前から10列目、ややサイド寄り)、じゃぁ、どの場所でこの芝居を観れば良かったのか、ということになる。結局、最初から最後まで、この違和感はなくならなかった。それならもうちょっと小さい箱で、マイクなしでやれば良いのになぁ、と思うのだけれど、出演者のギャラを考えるとそれは無理なのかもしれない。でもね、あの箱でマイクナシでやれないってことは、やっぱり役者としてそれだけの能力がないってこと。そういう役者に対してあれだけのお金を払ってしまう観客がいるから悪い、ということになる。そして、もちろん僕もその芝居にお金を払ってしまったのだけれど。やはり、芝居の人間じゃない人が大きな箱でやる芝居というのは、なかなか難しいところがあると感じた次第。
そして、最後に。あのラスト。ラストは、やっぱり伊良部が飛ばなくちゃ駄目でしょう。あの演出方法なら、伊良部だって飛べたはず。