バイト 公演情報 カスガイ「バイト」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    役者を見せる舞台
    描き出される世界の骨組みには
    どこかルーズな部分も感じるのですが、
    そのことが、役者たちが紡ぎ出すロールの
    色も、質感も、息遣いまでをも、
    裾野にまで解くためのスペースのようになっていて。
    舞台の空気には物語の枠組の中でタイトに縛られることなく
    むしろ定まりきれない揺らぎが常にあって。
    その中にキャラクターを定め、色を醸し、場を感じ、対比を生み、
    ミザンスを作り、自らも他のロールたちも映えさせていく
    役者たちの一人ずつの底力にぐいぐいと引き込まれていく。

    これは役者を見せる舞台だなぁと思いました。

    ネタバレBOX

    終わってみれば、
    物語のコアには、社長と罪を負わない従業員の二人が浮かび上がり
    そのロールはしっかりと色を定められ
    揺らぐことなくきっちりと作りこまれていて。

    一方でその世界に繫がれることを強いられた
    他のロールたちのありようが、
    二人の世界に重なり、
    とてもビビッドに空気を織り上げ
    観る側をも、そのなかに引きづり込んでいく。

    役者それぞれが台詞とともに描き出すキャラクターの世界も
    しっかりと観る側に置かれるのですが、
    むしろ、同じ場にあって、
    自らのロールを粛々と紡ぎ続ける
    他の役者たちの貫きが凄い。
    その身体や、表情や、テンションが紡ぎ出す
    感情や想いのありようや強さが、
    常に表情を持ち、色を変化させ、場に一期一会の如き
    揺らぎを与えていく。
    どの一瞬に、どのロールをながめても、
    そこには刹那の想いと息遣いがあり、
    対面客席の中、背中の演技を晒す役者からも、
    その感情の切先をしなやかに受け取ることができるのです。

    物語の枠組に定められたロールたちのタフな状況と
    バイアスの掛け方が
    役者たちの演技を縛るのではなく、
    むしろ、それぞれの演ずることへの想像力や瞬発力や持久力を
    刹那ごとにしっかりと解き放つ仕掛けともなっていて。
    それを足場にして、ロールを単なる物語の色に染めず、
    場ごとの命を与え続けていく役者たちの力量にひたすら見入る。

    初めて拝見する役者はおらず、
    もれなく、他の舞台での秀逸なお芝居が記憶に残っているのですが、
    なにか、それぞれの役者力に、改めて惚れ直してしまったことでした。

    正直に言って、
    描ききれていなかったり、埋もれてしまった
    部分もいろいろに感じたりはするのです。
    たとえば、ロールたちのその場に至るまでの日常の肌触りとか、
    コアを支えた二人の感情の積もっていく質感とか・・・。
    でも、そうであっても、
    脚本や演出のこの物語へのフォーカスの定め方が、
    役者の底力を見せるという部分では
    功を奏しているようにも思えて、

    観る側に意識をさせず、
    一方で舞台を際立たせていく音の使い方もうまい。
    美術にもセンスがあって、
    生き物のような舞台のベースをスタイリッシュに支えて。

    観終わって、
    コアを背負った二人の役者の終盤のシーンにも息を呑みつつ、
    単に物語の顛末を知ることの充足感に留まらない、
    出演者達それぞれが切り出した
    刹那ごとに生まれたライブ感のようなものにこそ
    しっかりと掴まれておりました。

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    2013/06/16 09:54

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