恐怖が始まる 公演情報 ワンツーワークス「恐怖が始まる」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    淡々と
     この国で価値とされてきた、美徳とされてきたものの内実が、その内部から瓦解してゆく姿を淡々と描いて秀逸。(追記 5.26)
     

    ネタバレBOX

     現在、この「国」の緊切な話題は、無論、原発人災をどうするかだ。この難題に立ち向かっている原発労働者、それも下請け労働者とその家族が主人公である。作品の作者は、元ジャーナリストだから、そういう視座からこの物語を作り、演出している。従って、人々の私情が矢鱈入り込む余地は予めない。その突き放した作風こそ、この作品の成功の秘訣だろう。科白も恰も取材者が、取材対象から得て来たドキュメントを構成したような作りになっていると言ったら分かり易いだろうか。
     放射性核種の齎す恐怖を描く以上、原子物理学の知識も無い者にその恐怖を理解させることは愚か、想像させることさえ、かなり難しい。放射性核種は、我々の五感では一切捉えられないからである。目に見えないだけでも、それがどういうものか想像させるのは、共通認識がなければかなりの困難を伴うだろう。まして、放射性核種となれば、世界中の推進組織が必要なデータを隠す。或いは歪曲化したり、わざと間違った情報を流す等々の工作をしているのだから、大抵の人は何を信じていいのか分からない、などということになりがちだ。その場合、訳が分からない物・事は、漠然と怖くても、実際には、自分が何を怖がっているのかも定かでない為、大抵の人は、忙しいと逃げを売って忘れたことにしてしまう。
     一方、物理的な事実は、その条件下では無論絶対である。地球上で物が、落下する場合の加速度は、4.9S²である。これは、地球上であれば、どこでも通用する。音速は331+0.6T、Tは、常温で15度cを意味するから、音速は秒速340mと考えるのが基本である。こんなことは、義務教育で総て習ったことなので、今更態々繰り返すのも愚かなことだが、誰でも知っていることを例に挙げた。
     所謂「専門家」が、「素人にはわからないのだから黙っていろ」などと暴言を吐きつつ、己がどんなに馬鹿げたことを言っていたかと言えば、例えば原子力安全委員会委員長であった、班目春樹が、どれほど、頓珍漢で愚かなことを言い続けていたかを見れば、明らかだろう。原則を見、原理を知り、自分の頭を明澄性の中に置くことを知って、正しく推論するなら、例え、専門の学校など出ていなくても正しい推論は立てられるものである。それが出来ないのは、前提に間違いがあるか、推論に間違いがあるか、計測すべき何かを計測していないなど初歩的なミスを犯しているかであろう。
     この作品は、淡々と避けられない被曝を描くことによって、それが、何を破壊し、破壊される恐怖が、どんなに人間関係をズタズタにするかを描いている。劇場に入ってすぐ気付くのが、原発建屋を模した幕で、無論、上部は、金属が錆び、折れ曲がったフェンスのようになっている。ニュースの映像で、今は誰でも知っている事故原発の外部だ。
     安倍内閣のいうような楽観的なことは、2年以上経った今でも、何一つ言えない。そのことを胸に刻んで、生命総てに害を齎す核というものに想像力を働かせたいものである。


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    2013/05/26 01:28

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