わが友ヒットラー 公演情報 シアターオルト Theatre Ort「わが友ヒットラー」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    独自の美意識を徹底した空間。だが、心が見えてこない。
     三島由紀夫作『わが友ヒットラー』は『サド侯爵婦人』と対をなす長編戯曲です。私がこの戯曲の上演を観るのは今回で3度目になります。
     暗い劇場に入るなりスロープ状の白いステージが目に入りました。ステージ両脇に客席が設定されていて、いつもとは違う駅前劇場にわくわくしました。スロープ最下方あたりの天井から吊り下げられたシャンデリアには、人骨や髪の毛を思わせる装飾が施され、ユダヤ人虐殺を想像させます。

     男同士の言葉の闘いは常に丁々発止というわけではなく、俳優はある演技の手法や型をもちいて丁寧に演じていました。緊迫感がないわけではなかったけれど、細かな対立をたっぷりと見せすぎだったように思います。型を演じるにしても、スピード感や軍隊らしい躍動感が欲しかったです。三島由紀夫戯曲の長大かつ流麗なセリフは、やはり難易度が高いですね。

     スロープが割と急こう配なので、俳優が登っていくと天井に頭がぶつかりそうになります。意外と狭い演技スペースで椅子を転がしたりもしますので、俳優への身体的、精神的負荷は高そうです。4つの脚が包帯で巻かれた歩行器が、演説台や朝食のテーブルになるのを見て、鈴木忠志さんの作品(俳優が車イスに乗って登場するなど)を思い出しました。演技手法だけでなく、演出に関してもSCOTの影響があるように見受けられました。

     千秋楽は満席で、スロープ下方の階段上にも客席が設置されていました。「CoRich舞台芸術まつり!2013春」で偶然同じ題材を扱っていた劇団チョコレートケーキと、半券割引や交互トーク出演などの共同企画を実施されていたので、その効果もあったのではないでしょうか。フェスティバルを有効活用してくださっていることをとても嬉しく思いました。

    ネタバレBOX

     作り込んだ演技、美術、衣裳、ヘアメイク、照明などのスタッフワークから 劇団独特の美意識を感じ取ることができました。でも『わが友ヒットラー』を上演するなら、今の日本の政治や世界情勢をほのめかすような演出の遊びや工夫が、もっとあっていいのではないかと思いました。衣装に和のムードを加えていましたが、今の日本とヴィヴィッドに直結するわけではありませんでした。ヒットラーが昭和天皇に見えた瞬間があったのは面白かったです。

     俳優はある型を演じるのが基本でしたが、残念ながら俳優自身のクセが目立っていたように思います。声の大小の変化や歌うようなセリフなど、語り方に工夫はあるし、訓練も積まれているのでしょうけれど、人物の心が伝わってこなかったです。たとえばレームはヒットラーを溺愛し、盲信していますが、それが感じられないので彼の滑稽さが見えませんでした。レームの「ヒットラーの命令がないから殺せない」という意味のセリフは笑いどころだと思うんですが、笑えなかったのが残念。私もシュトラッサーと一緒に呆れて苦笑したかったです。
     
     生きたねずみを透明のケースの中に入れていたのには驚きました。ヒットラーがレームを殺したあと、そのケース上部に取り付けられていた小さなシャンデリアの光が消えます。細かいところまで凝っていますね。
     ステージ中央部分に通っている長い溝の中に照明が仕込まれており、俳優を足元から照らすのが効果的でした。ヒットラーが最後のセリフを言い終わった後、照明が消えるタイミングが素晴らしかったです。ヒットラーがちょうど進行方向を向いた直後に暗転したので、暗転後も彼の残像が残りました。決して後退しないという暗い決意と、ユダヤ人虐殺と戦争へと進む未来が見えました。

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    2013/05/24 15:55

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