満足度★★★
『海霧』『白い桜桃』
『海霧』
経済的な危機にある漁船の乗組員たちが、
密航者を運搬するビジネスに手をつけた。これで一獲千金!のはずが、思いも寄らぬ悲惨な事態に。
船の上、というまさに密室空間で起こる、逃げ場のない惨劇、
行き詰まる密閉感。
まずは、ハンパなく良く出来た戯曲であった。
人間同士が信じ合えなく、わかりあえなくなっていく、
ユージン・オニールの海洋物を彷彿とさせる作りだ。
その戯曲を、奇をてらわず、体当たりの真っ向勝負での演出。
リーディングなのに…あるいは、リーディングだからこその空気の濃密さ。
語られていく言葉に、しっかりと引き込まれ、集中させられる。
リーディングを観て、
面白かった!という手応えを感じたのは実に久しぶりだった。
やってる側も、観てる側も、
最大限の集中力・表現力・想像力を駆使しなければ成り立たない表現芸術。
垂れ流しで芝居を観てしまうよりも、よっぽど有意義でクリエイティブな時間・空間が、
そこには確かに存在する。
『白い桜桃』
同じく、韓国現代戯曲ドラマリーディングの今年のラインナップ。
こちらは『海霧』とは対照的に、日常を描くタイプ。
チェーホフみたいな感じだろうか。
山里の住宅を舞台に交錯する人間模様。
演出面でも、ほぼ動きのなかった『海霧』とは対照的で、
身体表現をふんだんに取り入れた作り。
全員で一カ所に集まってみたり、わらわらと移動したり。
リーディングと呼ぶには難があるんじゃないかしらと思ったが、斬新。
さらに、様々な楽器の演奏を組み込むことで、
また、出演者の多様な年齢も相まって、
舞台上を様々な音色が飛び交う作りだった。
特に後半、下総源太朗さんの存在感凄まじく。印象的だった。
この『白い桜桃』に『海霧』、そして私が出演させていただいた
『朝鮮刑事ホン・ユンシク』
が加わり、2013年の韓国現代戯曲ドラマリーディングという催しでした。
3演目とも観た人に、是非感想を伺いたいものだ。
リーディングの可能性、というものはどこまでも無限に広がっている。
ただ、小手先の目新しさにのみ終始してしまうと、
どうしても言葉・本が疎かになる。
リーディングにとって、それは本末転倒なのだろう。
演者と観客のセッションこそが、リーディングの最大の魅力なのだろうから。