マリア 公演情報 Straw&Berry「マリア」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    葛藤のその先
    わかりやすい絶望。「孤独で不安で寂しい」普遍的な気持ちを過剰なエログロナンセンスでしっかりエンタメに仕上げていて、作・演出の河西さんの作る世界は毎回観劇するたびに居心地が良いなと思います。出演者の方達も見事に世界を体現していて、なんでもない会話の言葉1つ1つが物語世界を引き立てているなと思いました。

    ネタバレBOX

    国分寺大人倶楽部の過去作品を幾つか見ていますが、これまでの作品を通じて繰り返し用いられる思いの共通項のようなものは何だろうなと考えました。

    例えば「閉ざされた空間での内向的な人間関係」。物語の中の登場人物の中だけで世界が完結していて、彼ら彼女らはどこにも行けないんだろうなという寂しい感じ。過去作品を振り返ってみても、会話や設定から、物語の外側はほとんど描かれてないように見える。

    「現実はこんなもんだと突きつけるような暴力的でシニカルな視点」。永遠の愛なんて無いことを、死や暴力や絶望でこれでもかと見せ付けるシーンは、どの作品にも共通しているのかなと思います。

    「常に緊張感の漂いながら観客を引きつけて離さない展開の早い盛り上がりの連続の物語構造」。キラキラした一瞬が面白くて、その間の余白も、その後の長い人生にも興味がないように思う。

    それらが浮かび上がらせる物語は、極端な自己肯定感の喪失や共依存を通じての逆説的な問題提起なのかなと思います。ご都合主義なほど絶望的な物語が突きつけられるほどに、反面希望が浮かび上がってくるところが不思議です。もっと周りの大事な人を、そして自分自身を信じても良いよなと逆説的に感じさせてくれるところが面白いと思います。

    開場中に流れる神聖かまってちゃんの「死にたい」を連呼する歌詞を聞きながら待つ開演、目の前は天井から布がたらされていて舞台美術が見えない。この時点で既にテンションあがってしまう!開演して作りこまれた1LDKの部屋の舞台美術にびっくり。そして、しばらくして場転してシーンが変わると舞台美術がガラッと転換!!左半分に主人公の実家の自室、右半分は喫茶店になって2つの異なるシーンが並列で語られるのに再度びっくり、すごい作りこまれてる。

    今作の主人公のシゲルは、作中に3年間の時間が流れても全く成長しない。五体満足で家族も仲間もいても、自分は誰にも愛されていないと感じる自己肯定感の低さ。一方でありふれた幸せを見せて、他方でそれらは自分以外の人の手にあって僕の手元にはないという認知の歪み。

    物語のラスト(2013年)
    舞台の左側では、愛されたいと思うけど皆離れていってしまうと思ってしまう主人公シゲルは、最後は血まみれで母親とキスをする。それは絶対に裏切らない無償の愛を与える母親への、現実逃避なのかなぁ。
    舞台の右側では、過去(2011年)にシゲルと「ずっと手をつないでいる(一緒にいる)」と話していた彼女(まりあ)が、別の男と幸せに生きていく風景が描かれる。
    ラストでシゲルは絶望して、まりあは幸せになったように終わっているけれど、2人にも、もちろんそれ以外の登場人物にも、その後の長い長い余生があって、その瞬間の幸せや不幸だけで人生は規定できないんだけれど、その瞬間、刹那が全てだと錯覚してしまう感じ。まさとの死や、あっという間に物語が1年後に進み、その間の情景が最小限にとどめられているのは観客に想像する余白を多く持たせるというよりも、そこは面白くないから省略といった感があるのかなと考えてしまいます。あくまで観客が見たいものを見せるエンタメ精神に徹する姿勢はスゴイなと思います。そうした物語の内側の余白を想像させるよりも、外側を想像させる。登場人物達のその先、葛藤のその先に思いを馳せることが本質なのかなと思います。

    そしておまけ公演。こんなにスゴイ作品作ってる役者さん達が、グダグダでバカバカでめちゃくちゃなことを演じることで、物語は全部嘘なんだと、改めて突きつけるところも含めて、やっぱり好きだなぁと思います。

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    2013/04/22 00:08

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