演出に難あり
言わずと知れたシラーの作品だ。古典ともいえる作品なので、筋についてくだくだ書かない。図書館ででも読んで貰えばすむ話だ。演出でアロマセラピストが香りをつけているのだが、自分の座っていた席には余りその効果が無かったようだ。ところで、新訳と銘打ち、かなり気合の入った舞台であるべきが、キャスティングや場面転換が頗る安易で、折角の原作が色褪せてしまった。キャスティングミスを言葉で言い繕っているのだが、この時点で既に演劇を嘗めて掛かっている。別に女性が男性役をやることに問題は無い。然し、身長でも、押し出しでも、また匂い立つような若武者振りでも、無茶をやって許される天性の資質でも、何一つギャップが埋まらないキャスティングは失敗と言うしかない。
更に、場面転換でもボヘミアの森から故郷フランケンに近い森に戻った時、恰もパソコンの画面転換でもするように場面を切り替えてしまう。余りにも安易だ。役者の身体性に対する演出の気遣いが足りないことが歴然としている。映画と勘違いしている点もあるのかも知れないが、言葉面だけ捉えて分かった気になっているのではないか、と勘繰りたくもなるのだ。更に、当時のヨーロッパに対する歴史認識も浅い。オーストリアの名がちらっと出てくるのだが、当時のオーストリアは、今とは比べ物にならぬ位力を持っていた、何故、シラーがここでその名を出しているかについて、もう少し勉強しておくべきだろう。
演出の力が全然足りない。これでは役者が可哀そうだ。