満足度★★★
未完成と思わざるを得ない
アマヤドリの前身ひょっとこ乱舞の作品は、「CoRich舞台芸術!2012春」の最終選考10作品に選ばれた『うれしい悲鳴』も含め、幾度か拝見してきました。達者な劇団員と客演の役者さんの躍動感のある演技・群舞によって立体化される、作・演出の広田淳一さんの世界観が、今作『月の剥がれる』でも独自性を保った形であらわされていたと思います。ただ、私が拝見した3月5日(初日)夜のステージは、未完成だと思わざるを得ない仕上がりでした。
まず、劇団固有の持ち味といえる群舞に心が躍らなかったです。言葉では語られない大きな何かを舞台に引き込み吸収して、繰り返す度に作品の熱を上昇させ、空間の密度を増していくような、いつもの効果が感じ取れませんでした。
近未来の日本で、ある平和運動をしている集団のエピソードと、それを劇中劇に見せる枠組みがある脚本でした。その構造には興味を惹かれましたが、冗長な場面が散見されうまく機能しているように思えませんでした。
広田さんはシアタートラムで2月23日、24日に上演された『韓国現代戯曲ドラマリーディングVol.6「朝鮮刑事ホン・ユンシク」』の演出をされており、観た人からとてもクオリティーの高い作品だったと聞いております。リーディング公演終了から『月の剥がれる』のプレビュー初日の3月4日までは、ちょうど1週間です。リーディング公演の稽古と本番が『月の剥がれる』の稽古期間と被っていたため、稽古時間を十分に取れなかったのではないでしょうか…。私は一観客にすぎず、現場のことは知りえない立場ですが、どうしても未完成の原因を見つけたくなってしまいました。
木を組み合わせて丸い孤の形になった大道具が天井から吊さげられ、それにつながる形で舞台面にも孤が描かれた空間でした。上弦・下弦の月を思わせる美しい美術です。ただ、ロフトに続く階段が並んでいるのは『うれしい悲鳴』の印象と被り、群舞ともども既視感がぬぐえませんでした。
カラフルでカジュアルなデザインの衣装はファッショナブルな路線ではなく、登場人物のバックグラウンドを示すわけでもなさそうで…全体的に意図がよくわからなかったです。私にとっては登場人物の年齢がわからないのがネックでした。学生といっても中学生、高校生、大学生で違いますし、大人といってもどのあたりの世代なのか知りたかったです。役者さんが必要以上に幼く見えてしまっていたように思います。
観音開きスタイルの豪華なチラシが目を引きました。毎公演同じ系統のビジュアルなので、一目であの劇団の公演だとわかります。
終演後に出演者および制作さんとお話した際に、当日パンフレットに人物相関図を入れてはどうかと提案したところ、翌日から実行してくださったそうです。ありがとうございました。