満足度★★★
思索的な堂々巡り
サミュエル・ベケットの代表作『ゴドーを待ちながら』では最後まで現れないゴドーのその時の様子が描かれた一人芝居で、コミカルな雰囲気の中に人生やアイデンティティーについて考えさせられる要素も見え隠れする作品でした。
自分を待ってる人の所へ行こうと思いつつも、いつどこで誰が待っているのかが思い出せず、一人ボケツッコミを繰り返しつつ話が堂々巡りして、いつになっても部屋を出ることが出来ない状況が延々と続く物語で、『ゴドーを待ちながら』を知らなくても楽しめて考えさせられる内容でしたが、裏話的エピソードや引用が巧みに用いられていて、知っていると洒落た趣向をより楽しめると思いました。
大倉孝二さんは緩急自在な演技で素晴らしかったです。台詞の語尾の言い回しや妙な動きがユニークで、引き込まれました。大きな声も小さな声も劇場のサイズに合っていて、聞き取りやすかったです。
ナイロンお得意の映像は用いられず、音楽や効果音もほとんど使われず、照明もごく限られた場面以外は変化のない、ストイックな演出が演技を際立たせていました。
録音による野田秀樹さんの声の出演は音響オペレーターさんの会話の間の取り方が上手く、スピーカーからの音の聞こえ方も自然で、まるでそこに野田さんがいるかのようでした。
戯曲の2割程度をカットしての上演とのことでしたが、休憩込み2時間でも飽きることなく観られたので、カット無しのフルヴァージョンで観てみたかったです。