娯楽と諷刺と
好みは観る人によって全く分かれると思うが、僕は好きだ。シュールなギャグがことごとくツボにはまって、笑いを堪えるのが大変だった。ただハイジ座の作品はそれだけで終わらない。痛烈に社会批判の目を向けようとする意志がある。
今回の作品はアイデンティティ・クライシス(自己喪失)への警鐘が作品の根幹にあると感じた。自分が何者で、どこから生まれ、何を目的として生きているのか。ある種の喪失感に抗う主人公は最後、これまで逃れられなかった性質に背き、ひたすら自分の思いに向き合おうとする。
ハイジ座は割といつもそうだが物語という物語は描こうとしていない。非物語の中で娯楽と諷刺を行き来する。日常の生活に埋没して機械的な行動に打ち込む、といったような消費社会における現代人への批判的な眼差しは、ハイジ座の作品には通底している要素のように思う。
今回批判は描かれていたもの、読み取りづらくはあった。確かにその案配は難しいところなのだ。余計なことだけど、作り手としておそらく満足しきってはいないだろう。とはいえ作品そのものとしては楽しめたのも事実。これから幾らでも伸びしろある才能なので同世代として楽しみ。
ちなみに作、演出の天野峻は同い年。彼の作品は処女作から観ていて、今回で五本目。観られてないのも二本あるから、凄まじいペースで作品を作っている。学生的なノリとテンションを残しながらも、独特のテンポある演出方法は我が道を行っていてクセを生む。はまる人は絶対好き。