満足度★★★★★
5年前を思い出した
「空間ゼリー」の芝居は、初めて見た人は、大抵、「とても面白い」と思う筈。
一方、テーマ性やテイストが似ているので、二度目以降は、最初ほどの感動を味わうことは出来ないと思います。料理に例えると、腕の良い料理人だが、素材の違いは有っても、味付けが似ている、数か月に一回食べる分には十分なおいしさだけど、欲を言えば、もっと新しい驚きが欲しい、という感じがします。
今回は、抑制の利いた演出だったので、初めて見た人にとって「平凡な話」と思った方も多かったかも知れません。肉料理ではなく魚料理という感じで。肉を食べたい、と言う人には、始めからアウトだったでしょう。
その分、過去何作か見ていた私は、少し新鮮に感じました。ヒステリックで分かり易い演出が多かった斎藤ナツ子さんの演技が、いつもと違っていたのが、特に良かった。
☆
丸5年前の春、初めて「空間ゼリー」を観て、たまたま、観客との懇親会があって、斎藤さんと長話する機会がありました。
その時の斎藤さんは、謙虚で、非常に周囲に気を遣う方で、ちょうど、今回の「一子」の様な印象でした。今回の芝居を観て「あの時の『ペルソナ』に似てるな~」という思い出したのでした。ペルソナ。パーソナリティ。仮面。人見知りで他人に素顔を魅せるのが怖くて、優等生に振る舞ってしまうと言う、キャラクター。それを芝居で表現してくれた様に見えました。
そもそも、何故長話になったかと言えば、斎藤さんが演技について熱く語ってくれたからです。5年前なので内容は良く覚えていませんが、演技が好きだ、という話は特に熱心で、彼女の別の『ペルソナ』が垣間見えた様な気がしました。
そんな、未だ20歳くらいだった彼女を見て、私は思いました。「彼女はずっと、芝居を続けるだろうな」と。で、仕事に悩んでいた私は、思いました。「彼女が芝居をやめない限り、私も仕事を続けてみよう」と。そんな感じで賭けてみたくなった、というか感化されました。
☆
人間の感情は複雑怪奇で、自分の事すら、まるで捕らえ所がない面があります。自分がどうしたいかさえ、良く分からなくなる。でも、強い感情は、時として人の心に影響を与え、人生の判断の指針となる事もあります。
私はそういう事を思いながら、このお芝居を観ていました。