獣のための倫理学 公演情報 十七戦地「獣のための倫理学」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    ロールプレイで成功
    横溝正史の「八つ墓村」のモデルにもなった事件「津山三十人殺し」をモチーフにした作品。
    良く練られた脚本と説得力のある演出で、少々出来過ぎな展開も納得させるからすごい。
    「主食は花」みたいに繊細な雰囲気を醸し出す脚本・演出の柳井祥緒の
    どこにこんなダイナミックな想像力が潜んでいるのだろう。
    この作品、今回のような極小空間でも大きな舞台でも面白いと思う。
    役者陣の緊張感がビリビリ伝わる隙のない演技で、最後は切なくも清々しい気持ちになった。

    ネタバレBOX

    地下へ降りると、舞台スペースを挟んで手前と奥に客席が作られている。
    床はコンクリの打ちっぱなし、白い壁、天井に小さなライトが10個ほど。
    前説とほとんど同時に恰幅の良い中年の女性が降りて来て
    中央の椅子に腰かけて蓮の造花を作り始めた。
    前説が聴こえないかのように薄いオレンジ色の花をかたち作っている。
    音楽もなく照明も変わらない。
    やがて私たちがさっき降りて来た階段から、次々と出演者が登場して来た。

    ここは精神分析医 市川玲子(関根信一)の犯罪研究会ワークショップの会場。
    参加者と共に事件や心理状態を再現する“ロールプレイメソッド”という方法で
    何故事件が起こったかを検証するワークショップである。
    この日の題材は1980年に岡山県で起こった「大摘村7人殺傷事件」である。
    犯人として逮捕された桐原は、罪を認めて3年後に死刑に処されている。
    集まったのはフリーライター、東京地検特捜部の検事、弁護士、助産師、中学校の教師、東京都緑化技術センターの研究員、都庁職員、そして玲子の教え子の大学生の8人。

    「事件のあった日を再現してみましょう」という玲子の言葉で
    小さな村が再現されていく、公民館、蓮池、犯人桐原の家…。
    玲子が照明のスイッチを消して、桐原の懐中電灯の灯りだけになる時の何というリアルさ。
    犯人の人となりやエピソードが明らかになるにつれて、参加者から疑問の声が上がる。
    「桐原は本当に犯人なのか」
    「犯人ならばよほどの事情があったのではないか」
    「真犯人は他にいるのではないか」
    思いがけないところから新たな資料が提示される度に、
    参加者は想像力を駆使して、事実を検証し直していく。
    やがて彼らは驚くべき真実にたどりつく・・・。

    役者とWS参加者の二重構造で、想像力をフル回転させなければ演じられない設定だ。
    この“ワークショップ”という設定がとても生きている。
    初めに参加者の自己紹介があり、全員胸に名札を付けているのも分かりやすい。
    極小スペースで一つの村を再現するという密な感じも空間の無駄が無くて良い。
    参加者の半数は何らかのかたちで事件関係者だったのだが
    彼らの差し出す証拠の品と共に、抜群のタイミングでそれらが判明する。

    ワークショップでは、“桐原犯人派”と“桐原無実派”それぞれが
    互いに解釈の矛盾点を突き、推測を実証するために資料を読み込んで行くが
    それが展開に緊張感をもたらし、観客も共に真実に迫って行く臨場感があった。
    以前にも「津山三十人殺し」をモチーフにした作品を書いていたという柳井さん、
    大量猟奇殺人というレッテルを超えて、何か新しい“人の心”の解釈の余地がある
    この事件に着目する気持ちが分かるような気がする。

    そして何と言っても進行役である主宰者の精神分析医、市川玲子が魅力的だ。
    市川玲子を演じる関根信一さん、参加者の心に沿いながらも強い信念を持って
    ロールプレイをある方向へと導いていく温かみのある女性像が素晴らしい。
    参加者の解釈の変化がロールプレイに反映するのが手に取るように分かる。
    この方の劇団フライングステージも観てみたいと思った。

    岡山から参加した中学校の教師向井を演じた北川義彦さん、
    鼻梁の美しい繊細な容姿が、WSに参加した理由に痛々しいほどの説得力を持ち、
    同時にロールプレイでの犯人桐原役はまさにはまり役だ。
    自己犠牲の強靭な精神がその表情ににじんでいる。
    十七戦地の座長でもある北川さん、座長にしてはクールで物静かな印象だが、
    その分脚本・演出の柳井祥緒さんが饒舌に発信するという名コンビか。

    十七戦地、次は第17回劇作家協会新人戯曲賞を受賞した「花と魚」の再演だという。
    この劇団の柔軟な発想とホームページ等に見る写真のセンスに惹かれる。
    次の公演、ぜひ観たい。

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    2013/02/24 03:52

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