劇団 マウス オン ファイア サミュエル ベケット『消滅するまえに…』 公演情報 シアターX(カイ)「 劇団 マウス オン ファイア サミュエル ベケット『消滅するまえに…』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    ベケットの普遍性
     ベケット後期の作品から4つの短編「オハイオ即興劇」「あしおと」「あのとき」を英語で、「行ったり来たり」を英語とアイルランド語の2つのバージョンで上演する。難しいと言われるベケット作品の原語上演ということになるが、ベケットの作品の特質を知る為に、研究者は無論のこと、一般の方も観ておくのが良かろう。英語は苦手の方(作品の字幕は無いので、白水社から刊行され、今は絶版になっているベストオブベケット2,3巻とベケット戯曲全集の3巻を事前に読んでおくか、事前に問い合わせて翻訳資料が残っていれば、劇場ロビーで入手可能である。)(4作品の翻訳300円)。
    英語は大丈夫という方は、公演前に演出家によるプレトークも英語で楽しんで頂くと良い。(通訳つき)

    ネタバレBOX

     閑話休題、ベケット作品は、1行、1行がverseで書かれている為、非常に音楽的・詩的である。ベケット自身、音楽・美術に造詣が深く、作品の随所にその手腕が活かされている。verseで書かれることによって彼の作品は、ヒトの生理にマッチしたリズムを持ち、言葉のリズム自体が、呼吸し、言語表現の最終形態である充実した沈黙へと自然に推移する。 
     この事実と照明への卓抜な感覚、喩として自然な用い方と相まって、舞台空間を物理法則の支配する現実世界から、それに対置し得る文化的空間に再編するのである。ベケット作品の持つ普遍性がここにある。
     この特質に気付きさえすれば、観客は言葉の持つリズムに身を委ね、充分に作品の本質を味わうことが出来よう。余りに図式的になって恐縮だが、原語上演でもある。照明についても更に記しておこう。基本的に光は生、闇は死に対応している。同じように言葉は生に沈黙は死に対応する。
     但し、人の身体も年齢によって変化する。年をとれば、元気はなくなってゆく。それを光の強弱や、当て方で示したりもするのだ。初め強かった光が徐々に弱まり終には消える、となれば意味は明らかであろう。
     また、言葉と身体を競合させる場合などには、科白は一種の饒舌として排斥される側に立ち、身体行動そのものの象徴である歩行が実は生命そのものを表しているケースもあるので注意が必要ではある、が。
     この辺りの微妙な綾は、是非、舞台を直接観て感応して頂きたい。

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    2013/02/14 02:33

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