トロイアの女たち 公演情報 東京芸術劇場「トロイアの女たち」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    優れた出来ばえ
    千秋楽から時が経ちすぎてのコメントになってしまいました。失礼します。

    野心的な企画、大変すぎる挑戦でした、が、健闘したと思いますね。
    創る側の苦労や葛藤が大きいと観る側も骨が折れる。けれども、充実感は残る。
    そんな舞台だったと思います。

    ネタバレBOX

    序幕のポセイドン(アラビア語)とアテナ(ヘブライ語)の対話では神話世界に魅了されます。特にポセイドンの貫禄が素晴らしい。荒れる海の美術も美しいものでした。
    この荒波が引くと、ヘカベ(白石加代子)が地に伏しているという見事な劇的効果で本編に入ります。

    第1幕、ヘカベ(日本語)とタルテュビオス(アラビア語)の対話からもう作品の世界に引き込まれます。カッサンドラ(ヘブライ語)が加わる3人の対話場面は、劇中最も見応えのある部分でしょう。カッサンドラの舞踏的身体表現の悲劇性は、言葉の壁を越えて迫真的でした。

    この後から始まるコロスの合唱舞踏こそ今回の企画の真意を端的に表す場面であり、客の評価も分かれる部分でしょうね。日本語、ヘブライ語、アラビア語の順で3度繰り返される合唱、民族性を表現しているとされる各々の身体表現、見届けるのにかなりの忍耐が必要とされるのは事実です。僕も相当骨が折れましたが、先述した通り、充実感が残りました。

    第2幕には、アンドロマケ(ヘブライ語)が登場。この人も好演ですが、第1幕のカッサンドラには及ばないと感じました。

    2回目の合唱舞踏があって、第3幕にメネラオス(ヘブライ語)とヘレネ(和央ようか)が登場、この戦争の愚かしさが暴露される見せ場です。和央は見事な美貌ですが、類型的な演技で存在感は軽い。尤も、そういう役なのだから、責は充分果たしたというべきなのでしょう。

    3回目の合唱舞踏の後、終幕です。ギリシャ人の略奪と放火に加え、大地震の直撃でトロイアは完全に崩壊する―。見事な赤の照明が忘れがたい情景を見せてくれます。古代から繰り返されてきた文明の興亡、気の遠くなるような時の流れが一瞬で閃き見えるような不思議な感覚。去りゆくトロイアの女たちの姿には、現代世界にも確実に存在する紛争犠牲者、おびただしい難民たちが重なります。心の奥深くまでくい込んでくる悲しみは悲劇のカタルシス、文句のつけようのない劇的ピリオドを刻んでました。

    こうやって振り返ってみると、白石の力演がいかに素晴らしかったか再認識しました。彼女はまさに悲劇の王妃、妻、母そして祖母として舞台の上で生きていました。

    蜷川幸雄には、この大仕事をやり遂げた集中力、敬意すら感じます。
    どうぞ、これからも、本物の感動、大人のドラマを見せて下さい。

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    2013/01/06 22:43

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