組曲虐殺 公演情報 こまつ座「組曲虐殺」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    上出来の部類
    タイトルが素材の持つ凄惨さを印象づけるのとうらはらに、軽やかで、明るく、笑いと涙に彩られた歌劇でありました。
    面白かった。
    そして、感動しました。

    ネタバレBOX

    小曽根真は素晴らしい仕事をしました。場面転換時の演奏は全て即興とは驚かされるし、役者との絡みでの楽しい裏話が、アフタートークショーで聞けました。 井上ひさしの台詞はそれ自体リズムがあるから、曲をつけるのも難しいように思えます。ジャズメンの感性と技術が活きたのでしょう。

    井上芳雄以外、唄は素人の筈ですが、全く気になりませんでした。雑音は感じなかったですね。
    好演揃いです。例を挙げたくても、枚挙に暇がありません。

    栗山民也の演出は的確な折り目正しさ、静かな優しさを貫いていたと思います。
    けれども、評価に迷う部分も少なからずありました。
    特にエピローグ。
    スクリーンに映し出される井上芳雄つまり小林多喜二のポートレートを囲んで、『胸の映写機』を五人が唄うエンディングは感動的です。けれども、6人の俳優全員が合唱するという作者のト書きも、僕は捨てがたい。正解は、やはり、ホンのなかにある気がするのですが。

    小林多喜二と特高警察との追跡劇を宥和的大団円に導く作劇は議論の分かれるところでしょう。
    憎しみの連鎖を絶ちきるアウフヘーベン、というのが僕の解釈です。
    『ムサシ』と同じです。
    それが晩年の作者の切実な心情だったのだと。どうしても伝えておきたかったこと、(おそらく)特に若者たちに、弱い者イジメの構図で成り立っている国の歪み、この不正と向かい合うことは、あなた方ひとりひとりの尊厳と未来への希望の問題なのだというメッセージ。

    立派なのは、居丈高な社会派告発劇のコドモっぽさからは隔絶した複眼的表現の深味です。
    例えば、刑事たちのデュエット『パブロフの犬』が衝いてるのは、暴力装置の恐怖といった次元にとどまらず、安易に自己放棄する人間ほど当面の職業的義務の達成にはしゃかりきになってのめりこむ、あの日本人独特の不気味さです。それがこの二人の人間臭さとしてユーモラスでもあるのだけれども、ただの博愛で、彼らが人間らしく描かれているわけではないと思うのです。

    最晩年になって、作者は父が特高警察の拷問による傷害がもとで病に罹り死に至った事実を明かしました。
    多喜二に父を、多喜二の理解者であった3人の女性たちに母を、作者が重ね見ていたことは明らかだと思います。この作品の結末は両親への涙の祈りでもあったのだと。
    もしかして、これが最後になる予感があったのかも知れません。偶然だとしても、よほど運命的な暗合だとしか思えない。あるいはやはり、覚悟の遺言だったのでしょうか。

    察するとあらためての悲哀を感じます。

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    2013/01/04 22:25

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