期待度♪♪♪♪♪
人情
小さな頃、深川の長屋に住んでいたことがある。子供はみんな長屋の子供だから、他の家のお兄ちゃんやお姉ちゃんが、年下の子の面倒を見る。何せ、朝、仕事へゆく前に鍋釜、布団などを質入れして親たちは出掛けてゆく。残っている大人は結核に掛かった人位である。長屋は廊下を挟んで両側に部屋が並んでいるが、無論、鍵などない。障子一枚で廊下と隔たっているだけである。こんな具合に、幾棟かが並行して建っているのである。長屋の端には、共同の井戸があり、夕暮れ時には戻ってくるおかみさん達は井戸端会議をしながら、夕食の支度をする。子供たちは、どこの部屋へも上がり込んでいるから、長屋のことは全部知っている。知らないのは、肺病病みの人の部屋だけである。結核を子供にうつしてはいけないと思うから、患者は、本気に入るな、と怒るのだ。貧乏だが、温かいそんな人情を久しぶりに体感したいものだ。