アールパード・シリング [ハンガリー]『女司祭―危機三部作・第三部』 公演情報 フェスティバル/トーキョー実行委員会「アールパード・シリング [ハンガリー]『女司祭―危機三部作・第三部』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    そんなに難しく考える必要は
    無いのかもしれない。

    会場で売っていたパンフに載っていた、
    舞台に参加した子供たちの言葉を見ながら、そう思った。

    トランシルヴァニアの話は、
    ジプシー音楽なんかに興味があることもあって、
    何年か前からたびたびあちこちに聴きに行っている。

    最初は、「トランシルヴァニア」なんて聞くと、夢のような所なんじゃないかと思っていた。

    別にそれは昔も今もそんなに変わっていないのかもしれない。

    夢のように恵まれた土地もあるかと思えば、
    山を少し隔てたところでは、そうでないところもある。

    ネタバレBOX

    特に、最近のグローバリズムとでも言うのか、
    経済の混乱状況の中では、
    そうしたしわ寄せがジプシー(ロマ)の人たちの住む山間の村に大きく行ってしまい、
    夏の間は割合に食糧に恵まれていても、冬に飢餓状態になって殺し合いになって、
    白い雪に赤い血が飛び散っているところもあった、などと聞くと、
    東ヨーロッパのそういった村のすべてがそうとは限らないまでも、
    かつて自分が抱いていた「貧しくとも歌声の溢れるのどかな山村」
    という、日本では非現実的に見えても、ヨーロッパでは実現しそうな(勝手な)イメージとは、
    大きく隔たってしまっているのではないかと思ったりもした。

    子供たちの出身の村のことは詳しくは知らないが、
    自分の体験に似通ったという話をある子供が語るとき、
    近くで悲しそうに目を伏せる別の子どもの姿を認め、
    映像で見る美しい村の冬を自分なりに想像してみる。

    子供たちに自分の力で考えることを教える女優が正しいのか、
    神を信じて、理想的な共同体の一員を目指すことを教える牧師が正しいのか、
    作品の中では見えない。

    子供たちを残してきたことを悔やむ女優の姿も、
    トランシルヴァニアに比べればはるかに恵まれて見える
    ブダペストの雑踏の映像を後ろにしては、
    説得力が無さすぎる。

    あの村の冬は、
    コミュニティの存在を心の支えにして耐えられるほどのものなのだろうか?

    失業などによって、
    子供たちの家庭が次々と崩壊しているように見える中で、
    演技を教えることがどんな救いになるんだろうか?

    色んな考えが頭の中をよぎる。

    あの女優のしたことはただの自己満足なんじゃないか?

    牧師や体育教師の言うことが正しいのではないか?

    そんな(現実社会と同様の(苦笑))混乱のなか、終演後に
    公演のパンフの中に、
    子供たちの驚くほどに前向きなコメントを見つけ、
    ようやく気づけた気がする。

    ・・・暗闇の中に光を見つける、というのはこういうことなのかもしれない(苦笑

    大人が「これが正しい」と言って、子供たちに結論を押し付けること。
    これが一番無意味なのかな、と思う。

    同時に、大人の考える仕組みを、子供たちにムリに押し付けて、
    子供たちの可能性を潰すべきではないようにも思う。

    子供たちの言葉を見る限り、
    子供たちは、この公演に登場するどの大人より、
    また、ほとんどすべての大人より、
    賢明であるように感じられる(もちろん自分より(苦笑

    子供たちは直感により近く、生命力により溢れている。

    情報を与えすぎて混乱する心配は杞憂だと思う。

    例え失敗したとしても、彼らは大人よりずっと早く立ち直るだろう。

    父親を早くに亡くした子供も、
    こうして舞台を他の子供たちと一緒に作り上げることによって、
    世界の人びとからより多くを吸収するに違いないと思う。

    クレタクールにとっての何よりの成功は、
    自分たちが世界的な評価を得ることではなく、
    この子供たちが自分たちの力で舞台に立ち続けることによって、
    美しいが貧しいあるひとつの村で作り上げたものを世界にもたらして拍手を得、
    成長(という言い方が適当なのかは分からないけれど
    していくことなのではないかとも思う。

    ただ一つ、何か自分も建設的な質問をして、
    彼らの成長に加われなかったことが悔やまれる(苦笑

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    2012/10/29 23:27

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