満足度★★★★★
心洗われる人情噺
国立劇場に通し狂言を観に来たのは久しぶり。本作品は写真と脚本集でしか知らず、一度観てみたいと思っていたが地味そうな作品なので観るまでは、不安だったがとても面白くて楽しめた。
興行的には地味でも、復活や埋もれた作品の再演は国立劇場文芸課だからこそできる立派な仕事。
本作もそうだが、復活上演は新作と同等以上の労力が必要。
伝統芸能の補助金投入に消極的で、現代新作上演にこだわる橋下大阪市長には理解してもらいたいものだ。
私が子供の頃、塩原多助の話を芝居で観たのは喜劇の劇中劇で、それでは困窮した多助が愛馬を手放す設定だったが、本作では命まで狙われたため、やむなく故郷を捨てる決心をしたというもの。
この芝居、同世代の俳優が多く出演していて、学生の頃交流した人たちなので懐かしかった。
当時はいまと違い歌舞伎低迷期で公演数が少なく、若手に役がつかなかった時代だが、当時の若手がいまは50代以上になり、芝居の中軸を担っている。感無量である。
こつこつ努力する人が報われない現代、心洗われるような内容の芝居で、こういう芝居が上演できるのも歌舞伎の良いところ。
観客が中高年以上で占められ、「金より情」の多助に共感し盛んな拍手が送られていたが、気持ちよく劇場を出ることができたのが何よりである。