満足度★★★
酒と泪と男と女
『談志・志らくの架空対談 談志降臨?!』(講談社)を上梓したばかり、これで著作は何冊になるかってくらい、志らくの文筆活動は落語家随一だ。今回はもちろん談志の死去に伴って出版されたものだが、他の弟子たちの「追悼本」が、概ね師の回顧録になっているのに対して、"才人"志らくは一風変わっている。師匠の生前、実はそんなに腹を割った会話をしたことがなかったという志らく、師匠ならあのことについてこうも言うか、ああも言うかと、勝手に想像して一冊をでっち上げたのだ。
「死人に口なし」で自分に都合のいいことを書き放題なわけだから、師匠への冒涜、不遜な行為だと捉える人もいるだろう。しかしそれこそが志らくの眼目なのである。
不世出の落語家である立川談志を超えられる存在などあるはずがない。あるとすれば、それは"談志の幽霊"にでも出てきてもらうしかし方がない。志らくは談志を地獄の釜から召喚したのだ。これは「憑依」である。それができるくらいに自分は「談志を知っている」という自負の表れでもある。
志らくは高座で談志の形態模写を披露した。似ていた。単に声や仕草が似ていたということではない。いかにも談志が言いそうなことを志らくは言った。客席で一瞬息を呑んだ観客が大勢いたことを私は確認した。これほどのそっくりぶりを見せてくれた例を他に挙げよと言われれば、私はタモリの寺山修司のモノマネくらいしか思い浮かばない。
これほどの至芸を観られたのだから、充分満足で、あとの落語は付け足しのようなものであった。
と書くと志らく師匠に失礼だが、落語がそこまでの出来ではなかったのは本当だから仕方がない。