満足度★★★★
震災から、一年を経た後に
前回の小倉公演から、何となく“違和感”のようなものを覚えていた。
相変わらず、イッセー尾形は面白い。面白いが、どこか「おとなしく」感じてしまうのである。
イッセー尾形の一人芝居で演じられるのは、滑稽でどこか歪つなところはあっても、基本的には「フツーの人々」である。一つのスケッチ(イッセー氏ほかスタッフは「ネタ」と呼ぶ)は、一般的なコントのように、破壊的な終わり方をするのではなく、なだらかにフェードアウトする場合も少なくない。還暦を迎えられて、あまり攻撃的だったり、毒舌的だったりするキャラクターを演じるのを控えるようになったのかとも思ったが、それとも感触が違う。
思い返すに、これまでの公演との違いが生じたのは、イッセーさんが相手をする人々に、穏やかで優しい人が増えてきたからではないのか、という点に思い至った。もちろんこの「相手」というのは、観客の眼には見えない、イッセーさんの「隣」や「向かい」にいる人々のことである。
東日本大震災は、イッセー尾形と森田オフィスの人々にも大きな心の転換を促したのではないかと思う。多くの劇団や劇場が公演を中止していく中で、森田オフィスは殆どの公演を予定通りに敢行していった(実際には劇場側から安全面での不安を指摘されて断念したものもありはしたが)。
作品の中に震災や、あるいはそれを想起させる出来事を盛り込まなくても、イッセー尾形と森田オフィスは、この一年、「演劇ができることは何か」を追求してきた。それが前回、そして今回の福岡公演での、イッセーさんが演じるちょっとだけ世の中からはみ出してしまった人物を取り巻く人々の「優しさ」に繋がったのではないだろうかと推測しているのである。