「4 1/2」 「キッチンドライブ」 公演情報 劇団子供鉅人「「4 1/2」 「キッチンドライブ」」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    古屋の空間を知り尽くした、欲深でやんちゃな演出
     会場は築100年以上の長屋でした。作・演出の益山貴司さんのお住まいでもあり、普段はカフェ・バーとしての営業もされています。益山さんが使い慣れた、知り尽くした空間なんですね。
     『キッチンドライブ』では、台所と、玄関に面した踊り場の2つを舞台として使用していました。描かれるのは倦怠期の若い男女と、見知らぬ客人たちとの不思議などんちゃん騒ぎ。限定20人の観客は、壁で仕切られた2つの部屋を至近距離から覗くように鑑賞します。

     2階へと続く今にも壊れそうな木造の階段を、男性が全力疾走で駆け上がると、階段が大きく音を立てて軋み、本当の意味で生々しくスリリングでした(笑)。台所で所狭しと激しく踊る場面で、陶器の割れた音が響いた時もドキッとしました。破片を踏んで役者さんが怪我をしないかと心配になったのですが、舞台からドバドバと溢れて、飛び出てしまいそうなほど勢いのある演技に引き込まれ、ハラハラしながらも目が離せませんでした。

     ずっと台所にいる聡里役のキキ花香さんがとてもエロティックで、関西の女性ならではの大らかでしっとりした色気を感じました。シャツの首周りがよれっとしてるのもセクシー。無論、○○○エプロンは私にもツボでした(笑)。

    ネタバレBOX

     33歳無職の雄介とその恋人で21歳のフリーターの聡里が暮らす古い、古い日本家屋。同棲して3年になる2人の貧しい生活は曲がり角を迎えていた。言い訳ばかりして働こうとしない雄介に、聡里は愛想を尽かしかけていたのだ。そこに突然4人の招かれざる客が訪れる。2人だけの狭い世界が乱暴に、でも広く明るく開かれて、未来に希望が持てなくなっていた2人に、ある変化が訪れる…。

     おかまのリリーと芸術家のサリーは留守宅の台所を狙って食べ物を盗む“キッチン・ドライバー”。2人が初めて登場する時にしばらく完全暗転し、本当の真っ暗闇になったのは特別な体験でした。路地の奥にある長屋で電気を全て消すと、あんなに何も見えない、静かな暗闇になるんですね。その闇と静寂を破るようにカメラのフラッシュが光るのはお見事。
     他人の家の押し入れに勝手に入って高校受験の勉強をする30代のケンゴと、ケンゴを追いかけまわす恋人の大河内もまた、存分に暴れまわって聡里と雄介を翻弄します。2人ともが強烈なキャラクターで、特に1人で勝手にまくしたてるようにしゃべり続け、延々と自己完結する大河内の強引さ、滑稽さには圧倒されました。

     壁を隔てた2つの部屋での同時多発会話や、騒然とした台所と静かな踊り場の対比など、舞台空間の絵づくりが巧妙です。リリー役の益山寛司さんが、台所を破壊することも厭わないほどの勢いで、大いに踊って暴れる様は痛快でした。俳優の身体のみで生み出すスリリングで迫力のあるライブ・パフォーマンスとして十分に魅力的でした。

     リリーたちが嵐のように去った後、聡里はふらりと冷蔵庫の裏側に行き、そのまま消えてしまいます。聡里はリリーたちを追って家を出て行ったのか、この物語自体が雄介の幻想だったのか(最初から聡里は居なかった)、さまざまな解釈が可能です。玄関の戸が開く音がしなかったので、私は「家を出て行った」という可能性は低いと思います。「人間が消えた」という現実では起こり得ない、不可思議な怪奇現象ともいえる事件を起こすことで、観客に時空の広がり、深まりを体感させる効果があったと思います。

     蛇足ですが、物語の外枠が深田晃司監督の映画「歓待」と似ていると思いました。でも聡里が消えてしまうのは、「歓待」とは随分と異なる結末ですね。

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    2012/04/16 00:37

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