ソウル市民五部作連続上演 公演情報 青年団「ソウル市民五部作連続上演」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    『サンパウロ市民』「時代」そのものがくっきりと姿を現す
    戦争は遠い出来事。
    1939年サンパウロにある商家の1日を切り取り、植民地を支配する側の『ソウル市民』とは、また別の「植民」家族と時代を浮かび上がらせる。

    ネタバレBOX

    「あれっ?」と日にちを間違えたかな、と一瞬思った。
    タコの話に、玄関の修理、そして関取の訪問。

    この作品の舞台は、1939年のサンパウロ。
    『ソウル市民』と同じ文房具商の家族とその周囲の人々のある1日を描く。

    第1作の『ソウル市民』を下敷きにしつつ、この作品以前の4部作の、いくつかのパーツを利用して作った作品。
    と言っても、単なる焼き直しというわけではなく、きちんと当時の状況を調べた上での創作であるから、フォーマットを同じにして作り上げたということは凄いのではないかと思う。

    これは、「コロンブスの卵」ではないだろうか。
    出来上がってしまえば何のことはないかもしれないが、その発想は素晴らしいと思う。
    同じ時代あって、同じような家族たちが、同じようことをしつつも、境遇が違うという面白さ。

    『ソウル市民』自体も、1つの家族の歴史になっているが、フォーマットは同じだったのだ、
    しかし、1つの家族の歴史ということで、気がつかなかったのだが、「同じような家族たちが、同じようなことをしつつも、境遇が違う」という作品であったわけだ。
    もちろん、1家族の大河ドラマというような見方もできるのだか、時代だけが違う4本が並んでいるという見方もできるわけなのだ。

    つまり、5作品を観ることによって、「時代」そのものが、さらにくっきりと姿を現してくるということなのだ。

    『ソウル市民』では、日本の植民地であることが、大きな設定であった。そしてこちらの『サンパウロ市民』では、日本人が「植民」するという点では同じようであるのだが、実態は、労働力としての需要であり、ある意味下層を構成するために、つまり、まるで「植民地の住民」になるために地球の裏側にでかけた、と言ってもいい状況だった。

    この1939年という時期は、自らの手で自分の農地や商店を経営する人もいたようだ。
    しかし、戦争が激化しつつある中で、ブラジルはナショナリズムが台頭しており、日本人学校は閉じられ、日本語も話すことができなくなるのではないか、という状況となっている。

    そういう状況の中での日本人たちの心の拠り所は、「連戦連勝」の日本軍の情報だけである。しかし、短波放送は入りにくく、地元の新聞では日本人たちが思い描くような記事はあまり載っていない。
    情報から遠く、母国への想いがさらに情報を見る目を歪めてしまう。

    日本人たちは、自分の農地を「植民地」と呼ぶことで、日本人の誇り(半島や大陸を手に入れた日本国)を誇示しているようで、哀しい。

    そして、「土人」と呼ぶ原住民たちへの見下し方は、さらに日本人が自らの境遇を語っているようなものである。
    実はブラジル人たちに対しても、日本人の勤勉さと比べ、見下そうとしていることが見てとれる。
    さらに、同じ日本人であっても、「沖縄」の人たちに対しても、「暖かいところの人たちは…」というトーンで、やはり無意識に下に見ている様子がうかがえる。
    この構造を作り上げる感覚は、万国共通ではないだろうか。日本的でもあるが。

    また、家族たちの暮らしも同じである。家長が中心にいて、机に付く席次はとても大切である。
    自分より上の者が現れるとすぐに席を空け、自分は次の席次に着席していくのだ。
    これも無意識。

    沖縄、広島という地名にまつわる戦争の影を見つつ、サンパウロでは、バンザイを叫び、そして歌い踊る。
    前の4作同様に、いや、さらに情報の外にあることで、戦争というものがさらにどこか余所事のような市民たちなのであった。

    前の4作のパーツを利用した作品であるから、「歌」もある。しかも踊り付きで。しかし、これだけは唐突すぎたのではないだろうか。
    サンパウロにいる、という空気感を出すのであれば、ラジオや蓄音機などから、地元の音楽を流しているというような伏線もあったほうがよかったと思うのだ。

    それにしても、『ソウル市民』のフォーマットは、サンパウロで成立するのであれば、日系人の収容所があった『マンザナ市民』や日本人の町があった『サイパン市民』などという設定もあるのではないかと思うのだ。

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    2011/11/24 05:06

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