満足度★★★★
医者としての不文律
アルコールや薬物やセックス依存症の人の更正の為の隔離施設を舞台にした物語で、医療に関する重いテーマを緊張感のある演出で描いていて、引き込まれました。
暴力的、狂気的シーンが多くて笑いもほとんどなく、後味も良くないのですが、印象に残る作品でした。
冒頭からテンションの高い暴力的なシーンで、その後も激しい口論や患者達の異常な行動が続く殺伐とした雰囲気で物語が進み、次第に施設の裏の顔が明らかになって行き、最後は医者としての信念の違いから生じる悲劇的な決別が非常に衝撃的な表現で描かれていました。
後から冷静に考えると物語としてはそれほど新味のあるものではないのですが、演出が素晴らしくて、観ている間は圧倒されっぱなしでした。先鋭的な作品に見られる様な、ユニークな演出手法自体をアピールするタイプではなく、少々実験的な手法も内容に沿っていて自然に感じられる、手法だけが突出しない絶妙なバランス感覚が良かったです。
特に音の使い方がとても良かったです。常にメトロノームの音や衝撃音でビートが刻まれ、不安感を煽っていたのがとても効果的で、後半で使われるホイッスルの音も切迫感がありました。
シンプルな設えで空間を仕切り、重層的な表現を可能にしていた美術も良かったのですが、妙にカラフルなのが安っぽくて残念でした。床の模様も含めて1つの色に統一した方が、空間に緊迫感が出ると思いました。
この劇団を観たのは前々作の『バニラ』で、笑いを狙い過ぎて空回りしている感じを持ったのですが、今回は直球勝負のヘビーな作品になっていて、今後の展開が楽しみです。