満足度★★★★★
声
人の死について、考えてみる。
また、音楽について。
あるいは木漏れ日のように、浮かんでは消える景色について。
お別れを言って別れるのは、人生の中ではそう多くはない。
いつの間にか、溶けるように消えて、もう二度と会わないことのほうが多い。
・・ある日突然、自分の前から消えてしまった人たちのことを考える。
たとえば自分の父親について。
病室での最後の会話を思い出す。
たわいもないある一日の出来事。
久しぶりに家に訪ねてきた人の話。
父親は「よかったな」と言っていた。
笑っていた。
それは、景色。
音はあったのだろうが、父親が言ったその声がはっきりと思い出せない・・。
記憶の中の景色は、音の海に溺れて消えるだけ。
水面の景色はきらめくけれど、ゆらめくばかりでとりとめもない。
ときに音が舞台の台詞をかき消すというのは、
自分にとっては酷く自然に感じられる。
考えてみれば、記憶のなかの美しい景色にはっきりとした声が必要なのか?
上演する2時間ほどの時間は、
自分のなかの記憶を探す旅でもあるように思う。