満足度★★★★★
強烈なアクチュアリティ
2人の演出家による、宮沢賢治のテキストに触発された作品のダブルビル公演で、屋外ならではの演出が素晴らしい公演でした。
『わたくしという現象』(構成・演出/ロメオ・カステルッチ)
入口で畳1枚より大きい白い旗を受け取り、それを手に持ちながら不穏なBGMが流れる中を行列になって会場へ進むときから既に独特の世界観が広がり、会場に整然と並べられた膨大な椅子に1人だけ座っているというビジュアルに圧倒されました。超常現象のような冒頭シーンから引き込まれ、白い服を着た70人以上のアンサンブルの静かな佇まいが美しかったです。観客参加のシーンもあり、まるで宗教儀式のような厳かさがありました。人と自然が溶け合うような最後のシーンが印象的でした。
台詞がない無言劇で象徴的な作品でしたが、おそらくレクイエムの典礼文を用いていた音楽と美しい照明によって、天国のような世界が描かれ、30分にも満たない短い作品ながら強烈なインパクトを残す作品でした。
『じ め ん』(構成・演出/飴屋法水)
ゴミで埋め立てられ、水爆実験で被爆した第五福竜丸が展示してあるという夢の島のコンテクストを活かした、放射線や命、死、未来について考えさせられる作品で、悲観的な未来が描かれる中に微かな希望も感じさせる印象深いでした。
『2001年宇宙の旅』(2001年は主役の小山田米呂くんの生まれた年)、『猿の惑星』(米呂くんの父親、小山田圭吾さんのソロユニット「コーネリアス」の名の由来になった作品)、そして日本SFの代表作(題名を記すとネタバレになるので伏せます)とSFの名作が巧みに織り間込まれていて素晴らしかったです。ガムランの生演奏が神秘的な雰囲気を生み出していました。星空や虫の音も作品の世界観に取り込まれマッチしていました。子供達の行列や飴屋さんのでんぐり返りが孤独と希望を同時に感じさせて美しかったです。
たくさんあった印象的な台詞が音響のバランスが悪くて聞き取りにくかったのが残念でしたが、それを差し引いても余りある魅力のある作品でした。
両作品ともいわゆる演劇とは異なるタイプの作品ですが、舞台上での絵空事が描かれているのではなく、現実世界と繋がる強烈なアクチュアリティがあり、むしろあまり演劇を観ない人に観て欲しく思いました。