シャイロック 公演情報 東京演劇アンサンブル「シャイロック」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    見ごたえ十分の舞台
    横浜からは結構遠い武蔵関まではるばる伺いましたが、
    遠くまで観に行って本当に良かったと思った。

    主役人から脇役まで演技面でも、
    そして舞台装置など演出面でも素晴らしく、
    この日はかなり疲れていましたが、
    むしろ、元気を与えられたような気さえしました。

    ネタバレBOX

    シェイクスピアの「ヴェニスの商人」を素材にしながらも、
    一部は変更され、また、そもそもこちらは
    「ユダヤ人社会の側」から、この劇は作られている。

    シャイロックとアントニオウは、お互いに尊敬しあう親友という設定。
    アントニオウを名付け親として頼ってきたバサーニオウに、
    お金の工面を懇願され、彼のためにシャイロックから借金するはめに。

    シャイロックは親友の頼みゆえ、「証文も期限も不要」というが、
    アントニオウは、「ヴェニスの法律が、ユダヤ人との取引の場合、
    証文作成と担保設定を義務付けている。
    だから、法律を守らないわけにはいかない」と言う。
    そのため、2人は「馬鹿な法律を揶揄する」ため、
    例の「肉1ポンド」の契約をする。

    さて、キリスト教徒で、シャイロックやユダヤ人達に敬意を持って
    付き合う男はアントニオウだけで、
    バサーニオウはじめ、アントニオウの周囲は、
    ユダヤ人を人種差別し、軽蔑している。

    そして、アントニオウの船が遭難(?)という情報が入り、
    期日までに借金の返済ができないことに…。
    しかし、法と契約を守らないと、法律違反の前例を作ることとなり、
    それは法によって差別もされながらも一定の活動を許容されている
    ユダヤ人の平穏な生活を奪うこととなる。
    シャイロックもアントニオウも、
    「契約」の履行をせざるを得ないことを覚悟する……。

    さて、これまでの筋の流れと並行して、
    例のポーシャの婿選びの話も紹介される。
    しかし、こちらの扱いは軽く、劇中の婿候補は
    バサーニオウだけで、しかも彼は逡巡しながらも、
    ついに見事に「鉛」の箱を選択し、彼女を射止める。

    そして彼女は、シャイロックとアントニオウの
    不幸な出来事を知り、ヴェニスに向かう。
    そして、「肉だけ」「1ポンドだけ」の有名な台詞で、
    「契約無効」を宣言するが、これは利発さからというより
    「思い付き」というような扱い。

    また、フィアンセにも分からないような変装もしないし、
    フィアンセの指環を強引にもらって、それを使って
    後でフィアンセを困らせる話も出てこない。
    したがって、最後のバサーニオウの台詞では、
    むしろポーシャを下に見るような台詞も口にし、
    ポーシャの利発さはあまり強くは感じられない。

    また、話は前後するが、さらにもう1つの話として、シャイロックの娘
    ジェシカが、父への不満(しかし、彼は変人かもしれないが悪人ではない)から反発が次第に強くなってきたことと、
    ロレンゾウに魅かれ、ついに家出を敢行。
    しかし、ロレンゾウも、結局はユダヤ人差別者。
    父にまつわる裁判を通して、ロレンゾウや彼の取り巻き達の、
    ユダヤ人への差別意識を知り、彼への気持ちは冷めていく。

    結局、この芝居を通じて、キリスト教徒の方が、
    むしろ小人物に描かれている。
    シェイクスピアの戯曲と、どちらが史実に近いのか?
    は不勉強で知る由もないが、少なくとも、
    こういう観方は当然できるものと思われるし、
    むしろ、こういう観点からの問題提起はなされて当然とも思われる。

    まあ、A.ウェスカーの台本にもし注文を付けるとすれば、
    ポーシャが最後の裁判の場面など、さらに知恵を出して
    シャイロックをもっと助けて欲しかったところ。
    前述のとおり、ポーシャについて、この扱いでは、
    シェイクスピアの下敷きが無ければ、ポーシャの話は無くても良いくらい。
    まあ、「ヴェニスの商人」はあまりに人口に膾炙しているので、
    ポーシャの話を入れても良いし、
    あるいは入れないと益々落ち着きが悪くなるのかもしれないが。

    1

    2011/09/15 09:38

    0

    0

  • ご来場ありがとうございました。

    おっしゃる通り、
    アーノルド・ウェスカーは、
    確かにユダヤ人差別という問題を抽出し、
    そうではない物語に書き換えました。
    しかし、
    それは必ずしも史実に近いものではありません。
    ただ、
    文学や芸術が、
    時代の要請に対して表現されるものならば、
    時代の移り変わりとともに、
    その価値が変化されるのも事実。
    日本ではよく上演されている『ヴェニスの商人』ですが、
    ヨーロッパでは、
    あまり上演されていないのが事実です。
    その理由は言わずもがなですが。

    これからも、ぜひ、
    足をお運びいただければと思います。
    どうぞ引き続きよろしくお願いします。

    2011/09/22 23:07

このページのQRコードです。

拡大