満足度★★
孤独なアントーニオとシャイロック
現代的な衣装を着た役者達の丁寧な演技と、奇を衒わない分かり易い演出で描いた『ヴェニスの商人』でした。
アントーニオを優柔不断でちょっとゲイの気があるように描き、裁判のシーンでも自棄な感じで振る舞う頼りない男に設定していたのが新鮮でした。シャイロックは悩み葛藤する姿を強調していて、単なる悪役にせず同情を引く人物として描かれていました。ラストシーンがハッピーエンドではなくシャイロックの娘・ジェシカが父の威厳の消失を悲しむ姿をクローズアップしていたのが印象に残りました。
しっかりとした発声に基づいた台詞回しは過度に朗唱的にもならず、聴き取り易かったのですが、大事な台詞を噛む場面が多く見られ残念でした。全体に演技が中庸な感じで、もっと緩急があった方が良いと思いました。
素舞台の上に色々なサイズの椅子やベンチやテーブルがあり、それらを組み合わせてそれぞれの場を作っていたのですが、照明や人物の配置などの総合的な空間デザインが上手く行っていなくて、スタイリッシュさがなく、あまり面白さを感じられませんでした。また転換の際の役者達の動きがもっさりしていたのもテンポが悪く感じました。
38人もの役者が出演していたのですが、アンサンブルとして必要性を感じる部分がなく、勿体なく思いました。