クレイジーハニー 公演情報 パルコ・プロデュース「クレイジーハニー」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    ヘンキョウで大嫌いと叫ぶ
    魂を削るような快作。まるで狂ったような感情の激しいうねり。怒っていたかと思うと、次の瞬間笑い、泣き、ふさぎ込み、叫ぶ。2時間強の間、一体どこに着地するんだと思うくらい、主人公ひろみの感情はグルグルと回り続ける。今作も期待以上、やっぱり早くからチケット取って見に行った甲斐があるなぁって思う公演でした。

    本谷有希子の描く人間は、人間らしすぎる人間が魅力だと思う。独特で生きた言葉。肥大しすぎる自意識からくる妄暴走。普通を疑う姿勢からくる自由すぎる自由。人生にそんなに簡単に答えなんか出ないんだというスタンス。エンタメとしての公演の構成。簡単に答えが欲しいと思ってしまうと、本谷作品はどこか冗長に感じてしまうが、こんなに生き方を楽にしてくれて、どうしようもない人間の愛おしさを感じてくれる作家は、僕はまだ知らない。

    ネタバレBOX

     携帯小説家としてデビューし、今は若くして落ち目の女流作家ひろみ結城。トークショーに、親友でゲイの甘田と出演するも観客は少ない。トークショーの企画を立てた編集者は、この場から新たな企画を考えていた。それは、集まったひとみのファンに自由に質問させて、その赤裸々なトークを本にしようとするものだったが…。

    本谷さんの小説「ぜつぼう」にどこか類似を感じつつも、そこから飛躍して深化したなぁという印象の本作品。小説家としてファンが作り出す勝手な理想像と、実像とのギャップ。流行の一過性で、もてはやされたかと思うと突き放される。その構造は、物語としてとても面白い。「私の小説読んで生きる希望をもらったのなら返してよ」とか捨て台詞も秀逸。

    何より、魅力的に感じたのはひろみ(長澤まさみ)と甘田(リリーフフランキー)の葛藤。人とつながりたい、でもつながれない。期待して裏切られてまた期待して。〈人は簡単につながれる〉、ってどうして言えるのだろうか?〈人間はいくらでもやりなおしが出来る〉、ってどうして言えるのだろうか?世の中がみんなそうやって生きてるんだから普通出来るでしょうと迫ることに対して疑ってかかる。「人とつながることは暴力です。(つながろうとする)あなた達はモンスターです。」でも思いつめながらも、途中何度かありのままの自分を受け入れようとする。「人とつながることは大事です。つながることを否定することは悲しい人間です。」が、しかし。またすぐに落ち込んでしまう。勿論、現実でも物語でも1夜にして劇的に悩みが解消する訳がなく、答えも出ないのだけれど。その七転八倒する葛藤が魅力的だった。過去、何作品か見ているが、いつも暴走するのは主人公一人だった。でも今回は味方がいる。それはとても新鮮だと思った。普通の人の言葉は、主人公の人達には届かない。自意識にしろ、客観的にしろ、〈ぜつぼう〉を共有した仲間とだから分かり合える喜び。そして、その仲間とすら分かり合えない悲しみ。喜怒哀楽なんて区分けでは出せない感情を呼び起こされて、とても共感する。

    「3・11」と関連させる意図は感じなかったけれど。でも、「つながろう日本」に息苦しさを感じてしまう人は少なからずいるはずだ。「つながりたい、でもつながれない」。考えれば考えるほど、真面目であるが故に答えの出ない実像探しにグルグルと迷いこんでしまうのだ。それでも生きていくしかない。でも、考えずに考えずにただ逃げ出すことを許さない〈普通の世間〉の息苦しさと戦って生きていくことはどうしてこんなにしんどいんだろうか。

    な~んて。好き勝手書いてる僕も、当然浮ついた1本谷ファンに過ぎないんです。勝手に作品に惚れ込んですみません。…って謝ってもダメならどうしたらいいんだ~。とりあえず、今後の活動にも期待っっ!!

    0

    2011/08/30 11:25

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大