満足度★★★★★
これぞ演劇
物語は、有名な『12人の怒れる男』の脚色の為に、
結末は見えている。
そう11対1という圧倒的な有罪の判定の中で、
一人の人物の問い掛けにより、
無罪へ評決が傾いていくという話である。
最初の一人目の無罪を訴える男を演じるのは、
寺十吾さんである。
台詞をちょっと詰まっていたが、
彼独特の木訥としたキャラがとても良く出ていた。
現在の日本なら、最初の評決で「空気を読み」全員有罪で、
終わっているなぁと最初のシーンで思ったりした。
でも、そんな「空気を読み」したかのように、
ゆっくりと不安げに無罪を訴える男。
これが現代の姿かと思った。
各シーンでハッとする箇所があり、
見応えが十分。
正直退屈で眠気が来るかなと思ったが、
ずっと夢中で劇を観ていた。
陪審員3番演じる中原和宏さんと、
陪審員8番の寺十吾さんが、
言い争いから、3番が「殺してやる」と叫ぶところから、
空気が変わり、有罪を叫んでいた人達が、
被告人を異常と呼んで、「普通」はしないと言っていたことを
討論の場でやり始める矛盾。
「普通」とは?
真実とは?
だんだん迷宮に入っていく。
一番、論客だと思っていた陪審番号10番演じる日下部そうさんが、
偏見で物事を決めつけ、それに同意しない人達を詰る、
きれっぷりが素晴らしかった。
これが、イキウメで観たブラックな日下部そうさんが、
帰ってきました。
でも、そんな10番も最後まで認めなかった3番も
話し合いの末に無罪を指示する姿に、
人間の希望というやつを見た気がします。
とにかく、この濃密な空間で見た光景は、
しばらくは心の底に滞留しそうで、
本当にいい芝居をみました。