ネズミ狩り 公演情報 劇団チャリT企画「ネズミ狩り」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    繰り返し再演されて欲しい上質の社会派喜劇
     死刑について、犯罪者・被害者について、そしてそのどれとも無縁ではない私たちについて。批判精神を前面に出しつつ“茶番劇”に仕立てた、笑いの絶えないコメディーでした。繰り返し再演され、できれば色んな地域でツアーが行われて欲しいと思いました。

     盛り込まれたたくさんのテーマはどれも重いものばかり。密室の取調、裁判、死刑、冤罪、犯罪者の更生、犯罪被害者の苦労、貧富・社会的地位の差、顔の美醜、家族内の確執、世代交代、巷の噂、マスコミの暴力・・・。ここまで詰め込んだことに感心するばかりです。それでいて爆笑できる場面もいっぱいあるんですから、作・演出の楢原拓さんの手腕にうなります。

     しっかり作りこまれたそば屋の具象美術は、役者さんの確かな演技のおかげもあって、気持ちのいい臨場感。暗転中の音楽も効果音もいいな~と思ったら、オリジナル(音楽:YODA Kenichi)なんですね。

     終演後のトーク(ゲスト:保坂展人さん)では貴重なお話を伺うことができ、観客からも賛否両方の意見が飛び出しました。劇場で実施されたことが喜ばしい、非常に有意義な双方向の企画だったと思います。

    ネタバレBOX

     舞台は刑期を終えた人を雇用するそば屋「南海亭」。ある日、店主がナイフで惨殺された。同時に17歳の少年ノブオも刺殺され、ノブオの母親はその犯人の死刑を求める署名活動をしている。でもそば屋店主の長女で現在その店の女将となったナツキは、死刑には反対だ。なぜなら犯人の少年は親からの虐待を受けており、殺意はなかったと言うし、裁判で彼の弁護人が、店主を殺したのはノブオだと言ったからだ。

     最終的には殺人犯とされていた少年の死刑が確定。季節は夏から冬へと移り変わり、平穏さを取り戻した南海亭では、そば打ち職人のトモゾウとナツキが結婚して子供もできています。真面目に働いていたハジメ(=神戸連続児童殺傷事件の犯人)の姿はありません。

     時代は変わり、古いものは新しいものに否応なしに塗り替えられていきます。でも天井裏の目に見えないネズミの足音が消えることはなく、冬なのに冒頭の夏の場面のセミの声が響き渡る中、終幕。
     駆除してもいなくならない、そもそも姿が見えない「ネズミ」は「犯罪者」でもあるし、彼らを一方的に例外扱いし、迫害する「私たち」でもあるのでしょう。また、たとえ目に見えなくなっても、時が経って人が忘れてしまっても、起こった事実が消えることはありません。さまざまな解釈ができ観客への自問も促す、深い余韻のある幕切れでした。

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    2011/05/19 10:57

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