裸の女を持つ男 公演情報 クロムモリブデン「裸の女を持つ男」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    「悪」の色ぞろえの魅力
    ひとつの出来事から現れる
    キャラクターたちの個性に引っ張り込まれつつ
    その内側にある、
    善悪の色の豊かさにどっぷりと浸って。

    劇場の大きさを感じさせないくらいに広がった
    一歩踏み出したようなグルーブ感に
    ぐいぐいと捉えられていきました。

    ネタバレBOX

    発端は漫画家にモーテルに連れ込まれた女性が
    OBLと名付けられた非合法ドラックのオーバードースで
    死んでしまったことなのですが、
    裸の女を持ったその男(漫画家)が
    担当の編集者に助けを求める電話をかけたことから
    いろんな世界がその出来事に絡まってきます。

    編集者は自らのつてでその処理を他の人間に依頼し
    その人間はさらに仕事を丸投げする。
    実際に処理をする人間にとっての死体の処理は
    すでにニュアンスが違っていて・・・。

    そこに薬物がらみのスキャンダルでマスコミから逃げ回っている女優や、
    パパラッチの男、
    さらには風俗嬢やモーテルの管理人親子(?)、
    薬物によって現れる妄想までが入り込んできて
    物語があれよと広がっていく。

    全員がある意味悪人という設定なのですが、
    その悪さというのが
    必ずしも物語のなかで一色に貫かれているわけではない。
    むしろ「・・・の視点から見たら」みたいな但し書きを
    個々に背負った悪さで。
    その「・・・」には「世間」とか「法律上」とか「道義的な」とか「モラル」
    いろんな言葉が入るのでしょうけれど、
    ひとつの価値観で物語が染められてはいないのです。
    悪いことの色や一線を跨いでしまったという自覚の程度は違えど、
    なにかを踏み越えてしまった態のキャラクターが
    舞台を満たしていきます。
    その踏み越える線やベクトルがいろいろで、
    なにか個々の「悪いこと」が
    今という世界を膨らませて満たしてしているようにすら感じる。

    キャラクターたちの個性の作りこみが
    したたかで大胆で繊細でとてもよい。
    まさにクロムモリブデンならではのもの。
    善悪の境界線に対して
    ずかずかと踏み出す姿に
    作りこまれたその色ががっつりと浮かび上がってくる。
    しかも、なにかの事象を表層的に戯画化するにとどまらない
    普遍的な感覚が役者たちのお芝居に編み込まれていて。
    一人ずつの役者のお芝居を観ているだけでも
    十分に面白いのですが、
    それぞれの個性や立ち位置から伝わってくるものが
    物語の中に
    シーンごとの刹那の味わいとは異なる奥行きを
    しっかりと創り出しているのです。

    前半から何度も登場するドライブのシーンが
    ラストでは高揚とともに舞台に熱を作り出し、
    その先には
    一つの出来事につながった
    様々な個性や事情が引きずられる絵面が残される。
    終演時のその絵面から
    膨らみの毒の甘さや苦さの連鎖に
    知らず知らずのうちに
    観る側までが巻き込まれ、強く引き付けられていたことを知る。

    帰り道、当パンに作者が書かれた文章を読むと
    きっちりと作者の思惑通りに運ばれたようにも感じて
    少々(好意的な意味で)悔しかったりもするのですが
    よしんばそうであっても、
    もっとオーバードースしたくなるような
    魅力をしたたかに内包した作品でありました。

    それにしても、ほんとうに・・・、
    この劇団のお芝居は癖になります。

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    2011/04/20 05:56

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