満足度★★★
初見
ネタばれあり
ネタバレBOX
ぬいぐるみハンターの【ゴリラと最終バス】を観劇。
小学生の茜の履いていたパンツが盗まれた事から始まり、その茜の家族、その学校の生徒達、生徒の家族、隣人、ゴリラ、アパートの大家など生活圏内での付き合いのあるコミュニティー同士が、宇宙行きロケットを皆で追っかけるハメになるというハチャメチャな物語。
皆でロケットを追いかけるハメになるコンセプトは非常に面白いのだが、そこに行きつくまでの登場人物の物語に必然性が感じられず、唯の偶然性に落としているのが退屈な点だ。勿論、ロケットに乗っていた人物を家族が助けるのは当たり前なのだが、それ以外の人物達が何故追っかけるのか?という点が疑問だ。人助けと言ってしまえばそれまでだが、物語上では観客は納得出来ないのである。特に各人物を丁寧に描いているだけに、それなりの伏線を張っていけば更に面白くなっていたと思う。ただその点を除けば、人物を描く丁寧さ、皆でロケットを追っかける派手なスピーディーな展開は舞台としては目を見張るものがある。
これは明らかに初期の戯曲の展開のミスと言うしかない。
物語を重要視している劇団の様だし、それが惜しまれる作品でもあった。
見応えあり
【俺とあがさと彬と酒と】を観劇。
関東の劇団・DULL-COLORED POPと関西の劇団・悪い芝居の二本立て。それも同じ女優を使っての芝居。ほぼセットはなく、芝居、台詞のみで進行していき、片方が精神性の世界を描き、もう片方はマクベス夫妻を描いている。まだ若手の部類に入ると思われる劇団だが、内容が濃く、こんなに重い芝居を作れるなんてかなりの驚きだ。各一時間の芝居だが、見ごたえあり。
最近の若手の演劇界の潮流は、踊り、音楽、口語演劇が主流のように思われがちだが、先ずは戯曲ありの演劇本来の形に戻っているのだろうか?
そんな事を考えさせられる二本立てであった。
満足度★★★★
美しいに限る!
クリスマス・イブに観るからこそ、感動もひとしお。
このような物語こそ、日々の日常には必要だな。
満足度★★★★
ややネタばれかも?
ネタばれ
ネタバレBOX
劇団・座敷童子の【泳ぐ機関車】を観劇。
今年の紀伊国屋演劇賞を受賞。
炭鉱三部作の最終話。
炭鉱主である父とその家族、そして従業員達の物語。
それを息子の視点を通して描いていく。
一代で炭鉱主として成功した父親は、世間では炭鉱の神様と言われている。
それは金持ちになっても、決して奢らず、従業員を家族の様に扱っているからだ。
そんな神様と崇められている父親も、落盤事故による社員の多数の事故死、新しいエネルギー開発による波に追い詰められていく。
そして手の平を返すように従業員達が豹変して、父親は苦悩の末、自殺してしまう。
そして炭鉱も閉山に追い込まれ、残された家族はバラバラになっていき、そのボタ山を去っていく。
所謂、良くある炭鉱の話で目新しくないのだが、何故この事を題材に取り上げるのか?
3.11の震災による東電の企業責任、対応、それ以外も含めて企業のあり方が一番問われている今だからこそ
描く価値があったのだろう。題材はあくまでも昔の炭鉱の出来事ではあるが、描かれているテーマこそが、
失われつつある温かい人間社会をテーマしている処だ。特に物語上の父親が、社員を失った時の対応こそが、
本来一番大切な社会倫理であるべきだ!という事を明確に訴えている。物語上では父親は自殺をしてしまうのだが、
父親は事故を真摯に受け止め、行動している辺りが確実にものがっている。
一応、息子の視点を通して描いているだが、それが殆んど意味を成さないぐらい作家のメッセージ性が溢れた意欲作だ。
劇場の場所が錦糸町の倉庫、そして今ではなかなかお目にかかれない派手なセット。
誰が観ても感動するストレートな物語と、演劇の異空間を体感するには持って来いの芝居だ。
満足度★★★★
気田睦に注目だね
ネタばれ
ネタバレBOX
ノゾエ征爾が原作のみ参加で、複数の演出家による【マイサンシャイン】を観劇。
今作は小池博史(パパタラフマラ)と三浦祐介のふたりが演出。
小池博史の芝居は、ダンスを交えての芝居なので、全く理解出来ずに撃沈。
もうひとりの三浦祐介が台詞劇と演劇表現の上手さに圧倒される。
舞台セットが中央にあり、観客は前席、後席に分かれて座り、セットを前後に囲むように観る設計になっている。
何故か?穴の空いていた壁を潜ろうとして引っ掛かってしまっている女性。
壁を境に体の上半身と下半身で分かれている状態。片方の観客は上半身のみ、もう片方の観客は下半身のみしか見えないようになっている。その下半身側に男性が通りかかり、助けようと試みるのだが、それが上手くいかず、
そこから男性と女性の会話が始まる。何故、空いた穴を超えようとしたのか?穴の向こう側はどうなっているのか?お腹は好かないか?などの話題から互いの個々の話に及んでくる。
そして観客は、これはベルリンの壁の穴を潜ろうとして引っ掛かったに違いないな?と思い始める。
そして今度は上半身側に若い女性が表れて、食事の差し入れに冷麺を持ってくるのである。
ここで初めて北朝鮮、韓国の国境と分かってくるのである。彼女は穴の反対側の人達と会話をしてみて、引っ掛かった穴に戻るのではなく、突き進んで行く決心をするのである。それに男性も後に続いて行く~で終わるのである。
彼女はどちらから来て、どちらに行ったかは明確にはしてないが、隣国同士の無駄な争い、国境に線を引く無意味さを説いている事がはっきりと分かってくるラストでもあった。
注目していた唐組の気田隆があっての今回の芝居、売れてほしい役者だよなぁ!
満足度★★
次回作に期待かな?
早稲田演劇研究会、通称・劇研の企画公演【キ麗ナ破壊ショウ動】を観劇。
以前に在籍していた劇団・犬と串がプロになった為に、主だった劇団は存在していなく、今は新しく劇団を立ちあげてる最中?のようだ。
今作は世の中に不満がある少女が、自らの空想の世界に入り込んでしまい、そこを如何に抜け出すか?という物語。
大人が既に忘れてしまっている子供心を思い出せる瞬間に出合える芝居かも?と思いきや、そこまでもいかず、唯の子供の幼稚さを描いているだけのようだ。ただ演出家が描こうとしているテーマは少しだけだが見えるので、そこはまぁ良い。単に戯曲と演劇的表現が上手くないという感じ。それは根本的な問題なのでもあるのだが。
少女が「私は世界を拒絶する!」という台詞には痺れた。その一言があるだけでも、今作を観た価値はあったようだ。
ただ学生演劇とはいえ、劇研なのでもう少しどうにかしてほしいのだが・・・。
満足度★★★★
相変わらずレベル高い劇団。
ちょっとネタばれ
ネタバレBOX
キャラメルボックスの【キャロリング】を観劇。
言わずと知れた老舗の劇団。何度見ても外れなしのレベルの高い劇団。涙、笑い、感動、そして最も演劇らしい芝居を観たい方にはお勧め。
経営悪化の為に、クリスマスに会社をたたむ社員達の話。
その会社では児童を預かっていて、その児童の両親が離婚して、父親に会う事が出来ない為に、女性社員が母親に内緒でこっそりと児童を父親に合わせてあげるのだが、その事でとんでもない事件に巻き込まれてしまう・・・・。
簡単なあらすじはこのような感じで、起承転結に富んだ、誰が観ても分かりやすいドラマ展開で安心して見ていられる。
今作の面白い処は、主要な登場人物の殆んどの女性が自立していて、多大な借金を背負っている点だ。それは景気悪化の為に、父や夫が失業し、自堕落な生活の為に、借金を重ねた事が原因だ。現代の父権制度の崩壊を裏のテーマとして描いていて、その負の連鎖が原因で、とんでもない事件が起きてしまうのだ。ただ今作の見どころは、その事件が起きた原因は何か?という事を声高に描いてない事だ。あくまでもその事件によって登場人物達はどのような行動を取るか?という展開で、笑いや涙を誘っていく。あくまでも裏テーマを気が付くか?付かないか?は観客の視点次第だ。
もう流石としか言いようのない戯曲である。
演劇の本当の楽しみ方は、観客自身である!と作・演出の成井豊のメッセージを感じる。
満足度★★★★★
多少ネタばれだが
ネタばれが不可能な処が城山羊の会の面白さ。
ネタバレBOX
城山羊の会【あの山の稜線が崩れてゆく】を観劇。
タイトルとチラシのデザインからは、全く内容を想像出来ないのは毎度の事。
今作は家族の話。
父、母、娘のある平和な家庭に、ある日突然、娘の本当の父親が刑務所から出所してきて、娘と妻を連れ去ってしまう話。そして残された父親は・・・・?
話の筋を文章にしてしまうと妙に現実感溢れる芝居と感じてしまいそうなのだが、そのような訳ではないのが、この劇団の面白いところである。現代口語演劇の発展した形と言えば良いのか?平田オリザとはやや異なる演劇であるのは間違いない。
今作の家族内でのいざこざ、父親の苦悩を、社会的道徳で生きていく人達の、本音と建前を混ぜ合わせていく会話劇のサジ加減が絶妙で、そこに笑いを取っていく手法が、違う形の現代口語演劇の応用とも思える。ただ決して笑いを取ろうと作っているのではなく、真面目に生きている人達の姿に感動して、つい笑ってしまうのである。
兎に角、この劇団の面白さは、一度観るしかないと思われる。どうも文章で面白さを伝えるのが困難のようである。その理由は現代口語演劇だからともいえるのだが・・・・。
今作で4本目の観劇だが、全て大当たりの劇団。
かなりお勧め。
平田オリザ・・・青年団を主催している作・演出家で、現代口語演劇を提唱している。
満足度★★★★★
完全ネタばれ
大傑作!
ネタバレBOX
2006年の再演芝居。
今作は若者の虚無感を描いている。それもあえて無言劇で(R-18の芝居)。
幕が開くと、観客はベランダの外から芝居を観るという舞台装置になっている。ポツドールの18番・他人の世界の覗き見しているような錯覚を起こさせて、観客に一切感情移入させない演出方だ(セミドキュメントとも言われている)
舞台設定は、アパートの1Kで、8人の男女が共同生活している。ベランダの前は大通りの為か、車の騒音でうるさい。その部屋では、ガングロ女性、刺青男、茶髪、オタク、やくざなどの世間で言う処の全く駄目な若者達が住んでいる。そして室内は、腐敗する程のゾッとするようなゴミ為である。兎に角、汚い部屋なのである。若者たちは、各自で勝手にテレビゲームに興じている物、漫画だけを読んでいる物、セックスをしている物、オナニーをしている物、寝ている物、ある時は互いに殺し合いに近い暴力を振い合ったりと、他人の行っている事には全く無関心で、人間の同士の付き合いが全くないのである。ある意味、人間のゴミ為の世界と言うべきだろうか?それが行われているアパートの風景なのである。そんな中で、男女が入れ乱れたセックスシーンは圧倒的で、俳優は下半身を丸出しで演じているから驚いてしまう(但し、下半身の秘部はなるべく見せないように気を使っていた)。その部屋で行われている若者の生態を、時間経過と共に、ただ見せて行くだけで、物語は全くないのである。これこそがポツドールの他人の生活を覗き見している、セミドキュメンタリーの様な芝居なのである。
しかしそんな若者の生活風景を観ていて、ある時観客はふっと気が付くのである。それは朝になると若者たちは起きて、外に出て行き、夕方には帰ってきて、夜には夕食の用意を共同でして、その後は、セックスに興じて、深夜になったら眠るのある。まさしく人間らしい規則正しい生活を毎日行っているのである。若者の無関心、無気力を描いているように見せて行きながら、人間は生きる上での行う大切な営みには決して逆らえないと言う事を明確に感じさせてくれる瞬間でもあるのだ。今作は若者の虚無感を描くという事をテーマにしておきながら、人間が生きるとは?という根本的な事に言及しているのである。それは若者でなくとも、上記の生活の様な事は、誰もが毎日していると観客自身が気がついていくのである。そこに気が付くかどうかは、観客の鑑賞能力の高さが問われる処だろう。それが分からなければ、観客失格である。この芝居を観る意味はないのである。そうでない観客は、今の若者は駄目ね?という簡単な感想で、劇場を後にしてしまうのである。
まさしく作・演出の三浦大輔の観客に問いかけの芝居でなのである。
もう絶対観る事が出来ないと思われるポツドールの代表作であり、大傑作の芝居である。
必見!
満足度★★★★
箱庭?
劇団・箱庭円舞曲の【否定されたくてする質問】を観劇。
世間での評判がなかなか良い劇団。今回が初見である。
有名ではない漫画家達のアトリエでの物語。アトリエと言っても3LDKのマンションのリビングのみで展開する物語。そこでは描けない漫画家、打ち切り直前の漫画家、アシスタント、そこに出入りする編集者など、漫画界の切実な世界を描いている。それは現実な労働時間、ギャラ、創作的苦悩なども絡めて描いている。
決して変わった演出法をする事もなく、正攻法で見せている為か、何とも言えない生々しさを感じさせてくれる。役者の芝居もリアル感たっぷりという訳でもないのだが、映像では決して感じない、舞台の観劇の際に時として感じる、俳優が嘘を大げさに演じるという嫌悪感が、内容を切実に感じさせくれるのである。決して狙いで作っているとは思えないが、この劇団の特徴ではあるようだ。
好きなタイプの芝居ではないのだが、見応えはある演劇と言えるのは間違いなし。
劇団名が箱庭円舞曲という名前だから、毎回限られた空間(箱庭)のみの設定で作っているのだろうか?そこがやけに気になるのだが・・・・。
満足度★★
面白い俳優?
【ラフカット】を観劇。
無名な俳優をオーディションで選んで、それを4本立てにしたオムニバス芝居。
今作は感想を書くにも至らない。それは演劇が持っている面倒な行為、その日!その瞬間!その場所!でしか体感出来ないワクワク、ドキドキという刺激が今作には少しも披露されていない点だ。目新しくない戯曲、舞台でやる必要性も感じられない演出、それは映像表現の方が良いのでは?と感じてしまう。
だが4本も見ていると、そこには必ず面白い俳優というのがいるものだ。
【ゼロの人】という芝居で、そこの女優が舞台感タップリの演技を見せてくれた。もうそれだけで十分だ!と思わせてしまう程で、やはり俳優というのは凄い人達だ。
それが実感出来ただけで、まぁ、いいかぁ?
満足度★★★
微妙な空気感
玉田企画の【夢の星】を観劇。
前作の大当たりだった【果てまでの旅】についで2回目。
今作は、芝居の稽古場が舞台。
前作同様、その場の微妙な空気を読む、読まれるという互いの関係から
生まれ出る何とも言えない面白さを追求している。所謂、口語演出を学んだ上で作れる芝居の様だ。
舞台を作る上では、演出家がトップであり、それによって進行していくのだが、そこにある時から演出家に疑心暗鬼になっていく俳優と演出家の駆け引きを描いており、内輪受けしそうな展開だ。だが、あまり普遍的ではない題材に興味を持つ観客は何人いるのだろうか?前作は、修学旅行生徒の惚れた腫れたの男女の駆け引きだったので、誰もが分かる面白さを堪能出来たのだが、今作は果たしてどうなのだろうか?
題材選びが、今後の玉田企画の課題だろう。
満足度★★★★★
唐十郎の体調は?
唐組の新作【虹屋敷】を観劇。
とある裏町でねずみ駆除に走り回る消毒マン田口。同僚の虹谷が婚約指輪を探す旅に出ている為に、田口が虹谷の借金返済をしている。そんな最中、虹谷が破産宣告をしようとしている。その破産宣告に耐えられない田口はある事を思いつくが、虹谷が隠し持っている謎の不動産が発覚する。そしてその不動産から戦後の幼怪・岸信介~ストリッパー浅草ローズなどの秘められた愛の世界へと観客を誘っていくのである。
上記の筋から察する通り、唐十郎の得意とする戦後の浅草を舞台にした愛の物語である。毎回の事ながら、無理やりに作られたような現実と史実を織り交ぜ、オペラまがいの痺れる台詞の数々、そして最後の舞台壊しと観客はあっという間に独特な世界へ連れて行かれるのである。観客は簡単に物語の世界に連れ込まれるのだが、途中から内容が分からなくなってきてしまうのだが、そんな事はお構いなしなのである。だから芝居が良い、悪いではなく、好きか?嫌いか?によって観る芝居だ。だから今作はお勧めという芝居ではなく、興味ある方はどうぞ!という感じである。
今ではなかなか観る事が出来ない、正真正銘のアングラは、誰もが一度は観ておいて損はないと思う。
満足度★★★★
ネタばれ
ネバばれ
ネタバレBOX
ブス会の新作【女のみち2012】を観劇。
AV女優の生きざまを描いた芝居。
ほとんど起承転結はなく、カリスマAV女優、出戻りAV女優、元アイドル女優達のAV撮影現場での出来事を描いている。前作と物語の構成とキャラクターなど似ている点は多々あるが、やはり描いている世界観、演出家の視点などが興味深い。 いわゆる今の小劇場の潮流である、平田オリザの現代口語演劇という感じだ。リアルな世界を、リアルな会話で見せて行き、そこに不条理さと笑いを紙一重で見せてくれる。作・演出ペヤンヌマキは、何時も女性のマル秘部分を描いている為、当然女性の視点で描いているのだろうなぁ?と思いきや、そんな事は一切なく、己の視点で描いているのがはっきり見て取れるので、観客はその世界観に興味を示すのである。
今作は非常にお勧め。
ここからネタばれ。
まだ公演中なのでネタばれしたくないのが、あまりにの可笑しさと凄いクライマックスは書きたくてしょうがないのである。
大詰めのクライマックス撮影が上手くいかない。それはAV女優達のエゴのぶつかり合いなのだ。そんな中、元アイドル女優の決心によって最高のクライマックを迎えるのである。それは元アイドル女優の顔面に4人のAV女優が、己の潮をぶちかけるのである。いわゆる潮の顔射である。それも4人のAV女優は己自身で潮を出す特技があり、それを弧を描くように舞台上で大放射するのである。
いやぁ、観客は大満足である。こんなラストシーンはありえないもんな。それが出来るのは作・演出のペヤンヌマキだけなのだから。
流石に誰もブラボーとは言わなかったが、心中では皆が拍手喝采
満足度★★★
ネタばれ
ネタばれ
ネタバレBOX
串田和美の【Kファウスト】を観劇。
今作は、自由劇場のメンバー笹野高史と小日向文世が出演している舞台である(吉田日出子は出演していない) 串田和美の芝居は、あの伝説の上海バンスキングは観ており、それ以外にもコクーン歌舞伎など多数観ている。そして串田和美の芝居は外れがない!という印象がある。
錬金術師、占星術師、魔術師と呼ばれているファウストの物語。
人よりは面白い人生を謳歌している老人ファウストは、まだまだ人生の謎を解きたいと思っている。そんなファウストがある日、メフィストフェレスと出逢い、悪魔の契約を交わす。それはファウストが若い肉体を得て、欲望を満たし、そしてこの世の謎を解き明かす事。ただし契約には24年後、メフィストフェレスにファウストの魂を譲る事。そして二人は共にその24年間を一緒過ごして行くのである。
簡単に言ってしまえば、ファウストとメフィストフェレスのロードムービーという感じか?人生の終焉を見てしまったファウストは、新たに得た人生を以前より謳歌出来るのか?誰もが必ず感じる死への恐怖、そして自分の生きた証をこの芝居はテーマとしており、観客の皆様方の人生とは?と笹野高史の上手すぎる芝居、派手なサーカス、生演奏で観客に問いかけてくる。芝居の大部分は、新たなる人生を得たファウストの生きざまを描いているのだが、これが全くの退屈なのである。折角得た新しい人生を、観客はファウストと一緒になって客席で高揚したい気分なのだが、出来ないのである。生舞台でしか味わえないサーカス、生演奏が唯のお飾りにしかなってないのである。上海バンスキング、コクーン歌舞伎の臨場感はいずこへ?という気分だった。そんな事を思いつつ高倉健さんの気分でジッと我慢して観ていたのである。そしてこの芝居のクライマックスである悪魔の契約が終わる日に、ファウストはまたしても人生を悔いてしまうのである。今度はメフィエストフェレストと一緒に。そうメフィストフェレスはファウストの分身であり、自分自身でもあったのである。そしてその二人が空しい人生を終えようと、抱きしめ合いながら遥か彼方を見ている時に、舞台上手では、長いロープを伝ってサーカス団がスローモーションのようにゆっくりと落ちて行くのである。そして舞台下手では、長い梯子を登っては落ち、登っては落ちをスローモーションのようにサーカス団が演じているのある。なんという素晴らしい見せ方だ。まさしくこれが今作の最大の狙いであり、その視覚的効果に観客は人生とは?と考えさせてしまうのである。幾ら言葉で語った所で所詮無力で、演劇の醍醐味、視覚こそが舞台の最大の武器と言わんばかりの見せ方で舞台は終わっていくのである。そして舞台は終わった?と思った瞬間からまた驚くような芝居を笹野高史が見せてくれるのである。まさしく笹野高史ブラボーであった。
こんな素晴らし展開の見せ方に、流石に涙せずには居られなかったが、それまでのつまらなさは一体何だったの?と言いたい処だ。それこそが狙いです!と言い切るぐらいにリスクを覚悟で平気でやってしまうのは長塚圭史ぐらいなのだが、今回に関しては、明らかに串田和美の失敗です!と観客は気がついているだろう。そうまさしく失敗なのである。
だから今作は、お勧めではないのである。
満足度★★★
ネタばれしたところで・・・・。
劇団・はえぎわの【ライフスタイル体操第一】を観劇。
作・演出のノゾエ征爾は、2012年の岸田戯曲賞者だ。
この賞を取った劇作家の前後の作品は大体が面白い。
人は起きて、飯を食べて、トイレに行き、そして会社に行く。
当たり前の生活を送っている我々が、ある時ふと?そんなライフスタイルに疑問を持ったら・・・・。
10組近い老若男女の何もおきない日常生活を描いていて、その何も起きない毎日だからこそ、そこには最もドラマらしい事が隠されているのではないか?と人々の日常を断片的に描いていく。決して展開らしい展開はないのだが、当たり前の毎日は、実は起承転結の出来事だらけではないか?と観客に少しづつ投げかけて行き、そこに気が付いた瞬間にこの芝居の面白さが分かってくる。受身で観劇していたら、こりゃ退屈だなぁ!なんて騒いでしまいそうなほど、こちらの観劇する姿勢を問われる芝居だ。自分自身ですらこの様に感じたのは翌日で、「なんとまぁ駄目な観客だよなぁ、俺?」と自分の観劇姿勢を疑ってしまったものだ。
しかし今の小劇場の潮流は、この様な【無原則的巻き込み方】の芝居が多いようだ。アングラ代表格・故寺山修二の【肉体的巻き込み方】とは大いに異なるのだが、【無原則的巻き込み方】は、一歩間違えるとツマラナイという一言で済まされてしまい、忘れ去られてしまう危険性がはらんでいる。だが、明らかに時代と共に小劇場の表現方法は、多様化しているのは間違いない。
そこを戯曲のみ判断している岸田戯曲賞の選考委員の方々もあなどれない。
満足度★★★★
卵?
野田秀樹の新作舞台・エッグを観劇。
改装中の劇場に寺山修二の書きかけの戯曲が発見される。そしてそこから戯曲に書かれた物語の世界へ入っていく。エッグというスポーツがまだオリンピックでは公式認定されておらず、次回の開催予定地?の東京オリンピックでは認定される可能性があり、出場を巡ってスター選手・粒来幸吉(つぶらいこうきち)と新人選手・阿倍比羅夫(あべひらふ)と歌姫・苺イチエの三角形を軸に展開していく。そしてエッグというスポーツが出来た由来から、日本軍の人体実験、オリンピックの定義、選手の自殺、満州での戦争問題などの展開で話は進んでいく。
毎回の事ながら破天荒な設定から、少しづつ史実と現実を交らせていき、何が本当で何が嘘か?という小劇場的なオリジナルストーリーを作り上げてしまう戯曲にはウットリしてしまう。
20代の頃から沢山の野田秀樹の芝居を観ているので、感想は置いとくとして、これだけの物語を書いて、表現出来る演劇人は他には誰も居ないんじゃないか?という位レベルが高い演劇ですので、是非お勧め。
深津絵里の舞台での芝居は、大竹しのぶに近いものを感じるのだが・・・・?
満足度★★★
議論とは?
劇団・北京蝶々の【都道府県パズル】を観劇。
近未来の日本の道州制導入をめぐって、各代表がメリット、デメリットを議論し合う芝居。
ハハ~ン、これはどうみてもベケットのゴドーを引用した芝居、まさしく終わりのない議論の芝居だな?何て思っていたら、意外にもややハズた議論から始まり、議論に議論を重ねていく人達を描いている。結末で答えは出てこないのだが、珍しい議論ずくしの芝居だった。
満足度★★★★
ネタばれ
ネタばれ
ネタバレBOX
昨年話題になったトラッシュマスターズの【背水の狐島】の再演を観劇。
3・11の事件を最初に取り上げた劇団で、昨年の主要な演劇賞を取っている話題作。
が、僕にとっては初見の劇団で、骨太な芝居と公演時間が長すぎる?というのは噂では聞いていたのだが・・・。
3・11の事件によって被災生活を余儀なくされたある家族、ボランティア、そしてその家族を追っているテレビクルーが登場人物である。
被災者の生活状況、ボランティアの位置づけ、テレビの報道の意味などを的確に描きつつ、人間が普段経験する事のない出来事に出合ったが為に、ある事件を起こしてしまい、苦悩している家族の姿を通して被災の現状を描いているのが非常に面白い点だ。その状況の中で、どのように人間は苦悩し、理性を持って対処すれば良いかを問いかけている。
そして後半からは、3・11から何十年後の未来の日本国家の中枢で働き始めた登場人物達が、どのようにすれば原発停止、災害防止を出来るか?を世に働きかけて行く姿を描いている。前半が被災者の状況をリアルに描いているのであれば、後半は絵空事のような描き方に驚いてしまう。それは日本が立ち行かゆかなくなってしまった場合に、国を動かすのはテロしかない!という答えにしてしまっている点だ。ちょっと70年代のアメリカ映画的なノリ(映画・チャイナシンドローム)にそっくりだった。
そこが演出家のメッセージなのだろうか?
前半の問いかけに近い芝居が、後半の直接的な芝居によって全てを台無しにしている。
これで良いのかは疑問であったが、このような直接的なメッセージを述べられるのはやはり小劇場の醍醐味だろう。
そして休憩なしで、3時間15分の上演時間を飽きさせずに見せてくれたのは偉大だ。
満足度★★★
ネタばれ?
ネタばれ的感想か?
ネタバレBOX
月影番外地シリーズの【くじけまみれ】を観劇。
月影シリーズとは、劇団・新感線の看板女優・高田聖子の劇団外のユニットである。
北区赤羽でティッシュ配り20年の幸薄い40過ぎの麻子は、深夜にラジオ放送を聞くのが大好きである。そんな麻子がある日、誰も聞く人がない海賊放送をキャッチする。そしてDJと恋に落ち、二人は世界革命ならぬ赤羽革命を起こし、赤羽を混乱に陥れるのである。
大まかな筋はこのような感じで展開していくのだが、始まった瞬間からこれはどう見てもアングラではないか?と勘ぐってしまうほど、唐十郎の描く上野、浅草ならぬ場末の赤羽を描いているのである。無駄の多いアドリブ芝居、痺れるセリフの数々、一瞬に場面転換する安っぽい舞台セット、そして物語らしい物語が無い混沌としたアングラ感たっぷりの世界観を描いていくのである。
そして普段、劇団新感線で見せる18番の高田聖子の芝居は月影シリーズでは封印しているのだが、ここぞという時にはしっかりと堪能させてくれる。そして主演男優が唐組の俳優さんで、戯曲に当て込んだキャスティングは絶妙であった。
今作のアングラ的戯曲の演出方にはやや疑問があり、前半がやけに長く感じられ、後半からやっと進んで行くのであるが、それが狙いではなく演出上の失敗と感じられる。起承転結がない話だけに、前半から飛ばしていかないと簡単に失速してしまうのである。唐十郎の場合は初めからただひたすら飛ばしまくり、途中平気で失速してしまうのだが、それは唐十郎が書いて、演出して、決まり決まった舞台壊しというラストへ向かえるという観客の安堵感があるから問題ないのだが、今作は戯曲・福原充則、演出・木野花と別々な人が書いていて、戯曲が狙っている箇所と演出家の狙いとでづれがあったのだろうか?それとも女性だからだろうか?女性が描くアングラ芝居はないもんなぁ。男性はアングラ芝居にロマンを感じやすいから、その辺りの温度差からくるのだろうか?
まぁ、本日が千秋楽なのでもう観る事が出来ないが、個人的にはお勧め芝居ではない!という処か.....。