満足度★
はじめてのピースピットですが…
今まで見る機会がなかったので初めてのPP観劇。
非常に言葉に詰まる舞台でした。正直ぼくはこの舞台を評価できないです。
公演自体が関西小劇場の役者を集めた「オールスター感謝祭」的雰囲気が漂う舞台だったと了解したとしても…。
特殊な舞台設定を大きく活かすことができず、物語が展開しなくなり、挙句の果てには「作者の都合」だと公言して物語をムリヤリ進行させるという力技の連続の3時間。(休憩10分含)
ネタバレBOX
ある財閥(的な存在)が、歴史好きだということで、歴史上の人物を人造人間として再生させ、「ボルテックス(=渦)学園」に通わせる(飼っている?)というSF的な舞台設定。
SFは我々が所属している現実世界との対比で何かが語られたり表現されたりするものだと考えていましたが、今作にはそれが見受けられず、
「特殊な舞台設定でどれだけ大騒ぎできるか」
に焦点が当てられた芝居であったと思います。
物語としては、織田信長が強力な力で制圧しつつあるボルテックス学園に、宮本武蔵が転校してきます。武蔵は学園で一番強い者と戦って学園内No.1を狙いますが、人造人間として未熟だった武蔵は以前のような剣術の才能を発揮することができず、惨敗。武蔵は落胆しますが、そこから仲間たちとの助力(=友情)や自分自身の努力によって、かつての力を取り戻します。その間、学園を(理事長も含め)完全に制圧した信長。二人の最終決戦はいかに…。
といった流れだったように記憶しています。
人間ドラマとして見たとき、非常に弱い作品でした。ラストは信長と武蔵の一騎打ちの最中で幕を閉じます。どんな決着がついたかは観客に語られることはありません。では、この(あくまでオーソドックスなドラマとして)物語の最終的な目的(つまりオチ)はなんだったのか。
恐らく、
・男ふたりが真剣に戦う「様(風景)」
・そこ至るまでの「過程(成長)」
であったのでしょう。前者後者を含めて考えたとき、主人公である武蔵の「最強の者へ挑戦する」という感情は了解できます。以前のような力を持ちあわせていない悔しさから、努力・勇気・友情で力を取り戻していきますし、ご丁寧に一回挫折を挟んでの武蔵のセオリー通りの復活劇。感情移入もしやすい。
一方の信長は「(自分と対等の力を持つ相手がいなくて)つまらん」という立場でしかなく、自分に突っかかってきた男の相手をしているに過ぎません。動機としてどうしても弱い。
「強い動機」と「弱い動機」との対決では真剣勝負など想像できません。相対的な動機でお互いが戦うのが「真剣勝負」の醍醐味のはず。なので、ラストシーンのスローモーションでの戦いは、作中色んな場面で引用されていた週刊少年ジャンプ的に言えば
「こいつらの戦いはまだまだつづく…!!! ピースピット先生の次回作にご期待ください…!!!」
に見え、あぁ、この芝居は打ち切られちゃったんだ…と感じずにはいられませんでした。
恐らく信長に対して大きく感情を動かされないのは、信長の最大のライバル(という設定)だった前田慶次が原因かと思われます。
信長に匹敵するほどの力を持つ前田慶次。もし物語の中で前田慶次と織田信長の真剣勝負…!その結果、織田信長が学園統一!!!…となれば、「信長も熱い戦いを経て、学園No1になったのだな…」と、信長にもまだ感情移入できたかもしれません。しかし、最大のライバルは戦いません。その理由が「めんどくさいから」だそうです。コメディとしてのセリフだと了解したとしても、この作品の目的を信長と武蔵の真剣勝負とするなら、ここはふざけてはいけなかったのではないでしょうか。ドラマが弱くなってしまいます。
そういった中で、たとえ俳優が汗水流しながら大きな声で叫んだって、BGMとして劇的な音楽が流れていたって感動はできません。目の前で大きな声でギリギリなところでセリフを吐いている俳優を観るのは尊い瞬間ですが、だからといって感動できません。
AKB48の楽曲「会いたかった」を歌いながら女優陣が登場してくる、ブルース・リーの格好になって悪役をやっつける、武蔵が自信をなくしてムサコになる…などなど、これは学生演劇でもやらないあまりにも幼稚な演出でした。で、私が決定的に劇場内に孤独になってしまったのが、「お客さんが笑ってくれたら(戯曲賞などとれなくても)それでいい」と作・演出の末満さんが劇中で客席に向かって告白するシーンです。ここで客席の一部がドッと笑うのですが、このセリフまで今作で笑うことのできなかった私はどうしてくれるのでしょうか?
俳優陣は男性は良かったように思います。男の子芝居なので、男性は演技しやすかったのでしょう。その反面、女性陣は苦戦していたように思います。結局、飾りとして扱われた感が否めません。前半は男性として演じ、後半の頭にある海水浴のシーンでは水着(ビキニ)になる、男性じゃなかったっけ?作者の都合だ!と言われてしまいます。女性陣には圧倒的に不利な作品設定と演出でした。
「特殊な舞台設定でどれだけ大騒ぎできるか」という舞台であったのなら、ある程度成功していたかと思われます。ただし、常識から大きく逸脱した舞台設定の割にはオーソドックスなものから逸れない作りなので、作品的に大騒ぎしているわけではなく、「オールスター感謝祭」のように演者がたくさん集まって、その人達が大好きなお客さんが集まって楽しい時間を過ごして大騒ぎしていたと言えると思います。
私は、そういった作品であったことを知らずに観に行ってしまったのかもしれません。よく知らない芸能人のファンクラブの集いにに行ってしまったような気にさせられました。
満足度★★★★
大変巧みな舞台でした
とても練りこまれた構成、セリフ群で思わず唸らせる作品でした。音楽での「サンプリング」を上手いことライブの演劇に取り込み、消化できた作品です。スゴイと思う。
ネタバレBOX
あまりにも多くの人間が登場する作品なので、分かりやすいドラマが展開するわけではないし、いろんな人達が絡み合ってるなーと風景を眺めているような感覚になります。(動的に変化するスクリーンセーバーを見ているような…。)ゆえ、一時間あたりで一回作品性に飽きが来てしまいます。そこから何度かサンプリングのシーンが来るのですが、あのシーンが展開されるたびに芝居が一度終わったような感覚になってしまいました。
あと、上演時間を20分〜30分ほど短ければ大傑作だったなーと思っていますが、現状でも十分傑作です。良い舞台をありがとうございました。