しのぶの観てきた!クチコミ一覧

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篠田千明『ZOO』

篠田千明『ZOO』

KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭

京都芸術センター(京都府)

2016/11/11 (金) ~ 2016/11/13 (日)公演終了

満足度★★★★

同じものを見ても誰もが違う想像をする
参加型(?)かつ回遊型(?)パフォーマンスだった。私は苦手なタイプなんだけど、最終的にはとても面白かった。VRを被る福原完さんが人間、俳優、ロボット、又はそれらを兼ねた多重多彩な独白で、世界を平たくしたり、分厚くしたりしてくれた。撮影可。

燦々

燦々

てがみ座

座・高円寺1(東京都)

2016/11/03 (木) ~ 2016/11/13 (日)公演終了

満足度★★★★

体と心は不可分
葛飾北斎の娘で同じく絵師のお栄を軸に、江戸時代の庶民を描く長田育恵さんの新作。竹の棒と紙(布?)と演技で、抽象空間が活気のある日本橋に。静かに交わる男女の姿から、体と心は不可分だと確かめられた。気づいたらほろり、ほろりと涙が流れていた。
感想:http://shinobutakano.com/2016/11/08/3627/

ネタバレBOX

豪華な衣装とヘアメイクのおいらん(速水映人)が登場して驚いた。とても効果的だった。
治天ノ君【次回公演は来年5月!】

治天ノ君【次回公演は来年5月!】

劇団チョコレートケーキ

シアタートラム(東京都)

2016/10/27 (木) ~ 2016/11/06 (日)公演終了

満足度★★★★

文化の日に観られてよかった
ロシアを含む長期再演ツアー。歴史から消された大正天皇の姿をその妻の視点から描く。わかりやすい娯楽作で史実を観客に届ける姿勢と、座付き劇作家の古川健さんご自身の主張が核にあることに好感。「文化の日を明治の日に」なんて愚かな運動がある今、上演に感謝。

ネタバレBOX

「大正天皇はもともと脳の病気を患っていた」という虚偽報道があったとは。脳の病気を発症したのは即位して数年後。それまでは病弱とはいえ健康だったと。自分は歴史の教科書に騙されていた。
はたらくおとこ

はたらくおとこ

阿佐ヶ谷スパイダース

本多劇場(東京都)

2016/11/03 (木) ~ 2016/11/20 (日)公演終了

満足度★★★★

はたらくおとこ
約2時間15分、休憩なし。12年振りの再演。面白かった!!過酷な設定に過激な暴力、黒い笑い炸裂の長塚ノワールはそのままに、演技も装置も演出も新橋演舞場ばりの安定の高品質。笑って驚いてしみじみ。手練れ俳優の俯瞰&集中力凄い。芝居愛も。20周年記念パンフ2千円は買い!

ネタバレBOX

産業廃棄物(苦い、渋い林檎)の不法投棄。農薬漬けの農耕。舞台は雪国だからおそらく東北。田舎の閉塞、差別、搾取…。2004年は胸に、体にグサグサ来たが、2016年は現実味を帯びすぎて、普通の(ひどい)話として受け入れている自分がいた。

Woodcuttersー 伐採 ー

Woodcuttersー 伐採 ー

フェスティバル/トーキョー実行委員会

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2016/10/21 (金) ~ 2016/10/23 (日)公演終了

満足度★★★★

映像とライブの差が歴然
約4時間40分(休憩20分込み)はやはり長かったけど(笑)、愚行の繰り返しである人生そのものなのかも。国立劇場、芸術監督、芸術家への悪口炸裂が可笑しい。大げさな音楽も笑えた。木が芸術家なら切り倒すのは誰。私自身が木を切らない木でありたい。イプセン作『野鴨』の林の中にいる心地になれた。開演5分前からの映像で女優が語る演技論に首肯。ところどころ眠気に敗北…無念。

ネタバレBOX

出演している俳優の映像が流れるため、目の前にいる俳優と、映像の俳優を比べることが出来た。差は歴然。やはり舞台と映画(テレビ)は完全に別のもの。映像向きの俳優と舞台向きの俳優がいることもよくわかる。
ゴドーを待ちながら

ゴドーを待ちながら

Kawai Project

こまばアゴラ劇場(東京都)

2016/10/19 (水) ~ 2016/10/30 (日)公演終了

満足度★★★★

ゴドーを待ちながら
「ゴドー…」を観たのは多分3度目。虚無感や不条理を打ち出すのではなく、斜に構えず、戯曲に書かれたことを、そのまま上演した印象。2人の年老いた浮浪者の2日間を存在するものとして描いているのが好み。
原田大二郎さんの前向きで明るい演技も私の鑑賞姿勢の支えだった。ポッツォとラッキーの場面は私にはよくわからないことが多かった。子役がとてもいい。未来の伝言をする(未来を担う)のは子供だと納得できたし、小柄で無垢な美しさが希望だった。
誰にも平等に訪れる死(ゴドー)を前に人生は虚しい。なぜ、どうやって、生きるのか。ボロスーツの2人がごっこ遊びをしながら示してくれた。河合祥一郎さんの新訳は聞き取りやすく現代向けアレンジも楽しい。童謡の引用や「演劇評論家!」も好き。
約2時間45分、休憩15分込み。

フリック

フリック

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2016/10/13 (木) ~ 2016/10/30 (日)公演終了

満足度★★★★

フリック
凄い戯曲!マキノノゾミさんの演出は、優しくて、柔らかかった。

小さな映画館で働くアルバイトの若者の平凡な日常に人類の歴史を凝縮。映画の話題で数十年を振り返り、果ては聖書まで。軽いおしゃべりから人類の悲しみ、喜びがポロポロとこぼれ出す。彼らも私も映画(人生、世界)の主人公だった。

約3時間、休憩込み。

ネタバレBOX

楽しい話(映画のこと)をしている時だけ、人間は友達だし、幸せになれる。安易なハッピーエンドにならなくて本当に良かった。
棘/スキューバ

棘/スキューバ

不思議少年

こまばアゴラ劇場(東京都)

2016/10/12 (水) ~ 2016/10/16 (日)公演終了

満足度★★★

森岡光さんがいい
北九州芸術劇場「劇×トツ」で出会った熊本の劇団が東京初上陸。柴幸男さんも推薦する短編「スキューバ」が特に面白く、最後は落涙。森岡光さんの観客に向かって来てくれる演技が好き。

るつぼ

るつぼ

Bunkamura

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2016/10/07 (金) ~ 2016/10/30 (日)公演終了

満足度★★★★

さすが「るつぼ」
アーサー・ミラー作、ジョナサン・マンビィ演出。約3時間15分休憩込み。面白かった。法廷&牢獄シーンで聖職者のおじ様たち超イラつく!群れる少女たち超ムカつく!これぞ「るつぼ」の醍醐味♪黒田育世振付がいい。宮田慶子演出版と解釈が異なるラストも興味深い。
ロビーで戯曲本を購入し、新国立劇場版では初演の後に加筆されたプロクターとアビゲイルの場面があったことを確認(あまり上演されないそう)。やはり女性の描き方(捉え方)が違うのね〜。どちらかというと宮田版の方が重たい目かな。上手から差す照明が綺麗でした。

ネタバレBOX

キャサリンを美化するか否か。男性が抱く「理想的な(問題ない・害がない)女性像」ってあるよね~と思った。宮田慶子演出版では決して「美化」されていなかった。
怪談

怪談

笛井事務所

武蔵野芸能劇場 小劇場(東京都)

2016/09/16 (金) ~ 2016/09/20 (火)公演終了

満足度★★★★

怪談
約2時間強。3本のオムニバスで終わらないスズキ拓郎さんの演出に唸る。歌、踊り、ダジャレ、人形、映像、升、バチ…繰り出される多彩なアイデア、演劇的多層性に感動。観客含む劇場全体を無視しない姿勢にも。清水ゆりさん素敵。

ネタバレBOX

お酒の升の巨大版に入ったり乗ったり。かと思ったら三味線の巨大バチも登場。カランコロンと登場する幽霊は「おばけの鬼太郎」のテーマ曲からか。各所でだじゃれが上手に利いている。
落語の兄弟子、弟弟子が師匠の「帳面」をめぐって対立。実は兄の方が帳面欲しさに父である師匠を殺していた…という結末。
2本目の「真景塁ヶ淵」でアコーディオンの弾き語りをした清水ゆりさん。観客へ意識を向けた演技もしっかり。安心して心を任せられるエンターテインメントにしてくれた。
来てけつかるべき新世界

来てけつかるべき新世界

ヨーロッパ企画

本多劇場(東京都)

2016/09/16 (金) ~ 2016/09/25 (日)公演終了

満足度★★★★

来てけつかるべき新世界
初日は約2時間10分強。ドローンが飛び回る近未来のディープ大阪、通天閣付近の人間模様。大笑いしてふと怖くなり頭の体操、やがて統合的な意識、生命体を空想。今回も凄く面白かった!福田転球さんの大阪のおやじクオリティさすが。前回公演のDVD購入♪

ネタバレBOX

死んだお母さんのバックアップデータが通天閣にインストールされて語る。ラストは宇宙へ。人工知能を突き詰めると、過去も未来も空間も統合する方向に行くよなぁと。
マハゴニー市の興亡

マハゴニー市の興亡

KAAT神奈川芸術劇場

KAAT神奈川芸術劇場・ホール(神奈川県)

2016/09/06 (火) ~ 2016/09/22 (木)公演終了

満足度★★★

マハゴニー市の興亡
白井晃演出のホール公演4度目もまた劇場入るなり驚いた。広大な斜め!「三文オペラ」大好きだから音楽(スガダイロー)楽しい♪崩した「乙女の祈り」とか。生演奏贅沢。娼婦ダンサーズ超カッコいい(Ruu振付)!ブレヒトの異化効果を重視してか演技も歌も過剰な盛り上がりを敢えて避けてたのかな。個人的には物足りなかった。いつもながら文学座の櫻井章喜さんが素晴らしい。塩田千春展「鍵のかかった部屋」とのハシゴを超絶お薦め!

ネタバレBOX

異化効果は「盛り上げ過ぎないこと」じゃないと思うんですけどね。いつでも軽やかに冷や水浴びせてくれれば、熱くなっても冷められるし。この作品に限らず、ブレヒト劇を心底面白がって観られた経験って少ないです。
『OKINAWA1972』

『OKINAWA1972』

流山児★事務所

Space早稲田(東京都)

2016/09/15 (木) ~ 2016/10/02 (日)公演終了

満足度★★★★

OKINAWA1972
約1時間55分。敗戦から返還前後の沖縄の歴史を、現地の「ヤクザ」の闘争を通じて描く。地下の小空間で大勢が元気に踊り歌い暴れ、可動式大道具で場面転換。徹底したエンタメ演出になってて楽しい!米国との密約の成り立ちも教えてくれる。ひどい現実知るべき。日島亨役の五島三四郎さんが見惚れるほど良い。流山児★事務所&風琴工房の熱いマリアージュで小劇場演劇の醍醐味を味わえた。

ネタバレBOX

核持ち込みを迫られて、それを拒否するので精一杯だった交渉。でも米国の目的は核ではなく、基地残留だった…。完全な敗北ってことなんですよね。
ヒトラー、最後の20000年~ほとんど、何もない~

ヒトラー、最後の20000年~ほとんど、何もない~

キューブ

本多劇場(東京都)

2016/07/24 (日) ~ 2016/08/21 (日)公演終了

満足度★★★★

ヒトラー、最後の20000年~ほとんど、何もない~
2時間15分。KERAさんの新作。入江雅人さん主演(笑)。笑い続けてお腹痛いのに、何で笑ったのか思い出せない♪51歳の古田新太さんと23歳の成海璃子さんが共演…じんと来る。

ネタバレBOX

「テクノ・ベイビー」を思い出したりも♪
イヌの日

イヌの日

ゴーチ・ブラザーズ

ザ・スズナリ(東京都)

2016/08/10 (水) ~ 2016/08/21 (日)公演終了

満足度★★★

懐かしさ
長塚圭史作、松居大悟演出『イヌの日』。約1時間50分。最初からザ・長塚節。懐かしさが勝ってシアタートップスにいるような錯覚…。今はもうないあの時期が蘇り純粋に観られなかったと思う。年取った…。私が今までに観た松居さんのお芝居の中で一番演劇的。客席に張り出す釣り物含め美術が良かった。

ロミオとジュリエット

ロミオとジュリエット

カンパニーデラシネラ

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2016/07/15 (金) ~ 2016/07/18 (月)公演終了

満足度★★★★★

ロミオとジュリエット
芸劇の初日鑑賞。素晴らしかった!!沙翁の悲劇を70分に凝縮。観客参加型で娯楽性高い。感情の変化を描く無言の身体表現がドラマに厚み与える。小道具の見立てハイセンス!カテコ3回。

ネタバレBOX

静岡の野外大道芸は40分だったから30分追加されている。白い箱を斜めに並べてその上をジュリエットが歩く場面なども良かった。
わかったさんの クッキー

わかったさんの クッキー

KAAT神奈川芸術劇場

KAAT神奈川芸術劇場・中スタジオ(神奈川県)

2016/07/16 (土) ~ 2016/07/21 (木)公演終了

満足度★★★★

「わかったさんのクッキー」再演。
再演。約1時間。人気絵本をチェルフィッチュの岡田利規さんの台本・演出で舞台化。カラフルな道具と衣装で大人が全力ままごと。退屈な時間を設けるのは観客への信頼と思う。安易に盛り上げず冷静さを保てるのも好み。円形客席で子供達と観劇できる幸せ満喫。

KAAT神奈川芸術劇場の親子向けの創作お芝居では「暗いところからやってくる」(前川知大作、小川絵梨子演出)も好評ゆえ再演があった。「わかったさんのクッキー」も再演ツアー(13地域)を実現。公立劇場の力をバッチリ発揮されているようで個人的にとても嬉しい。

ま○この話~あるいはヴァギナ・モノローグス~

ま○この話~あるいはヴァギナ・モノローグス~

On7

KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)

2016/07/14 (木) ~ 2016/07/18 (月)公演終了

満足度★★★★

「ま○この話」
約1時間55分カテコ2回込み。女性器について女性たちが独白する米国有名戯曲の最新版を谷賢一さんが翻訳・演出。現代日本にフィットさせたり古代日本語を反映させたり、新訳の恩恵絶大。美術、照明、楽曲が雄弁。分厚い虚構が真実味を支え飽きさせない。振れ幅大きく明暗の差が鮮明な演技で、観客に積極的にアピールするのが良い。発語の技術と強い意志の賜物と思う。戯曲にはない告白コーナーにいい意味でショックを受け涙。新劇の劇団所属の30代女優7人の勇気と実行力に感服。「○○系あえぎ声」も楽しかった!

スケベの話~オトナのおもちゃ編~

スケベの話~オトナのおもちゃ編~

ブルドッキングヘッドロック

ザ・スズナリ(東京都)

2016/04/09 (土) ~ 2016/04/20 (水)公演終了

満足度★★★

卑猥で不毛な遊戯に耽る、オトナの不幸
 劇場入り口側と奥の2方向から舞台を挟む対面式客席で、舞台はとある豪華なお屋敷の中庭。敷き詰められた緑の芝が目を引きます。アクティングエリアが小さく見えて、閉じられた世界の遊戯を覗き見するような気分になれました。

 セリフは明晰に発語されるし、演技の方向も明快なので、会話の内容は理解できます。ただ、起こる事象には裏があり、それが隅々まで明らかになることがありません。パンフレットにも書かれていたように「曖昧であること」をテーマにした作劇方法だったようです。出来事の真相にあたる部分を敢えてそぎ落とし、謎を抱えたまま物事が進む群像劇でした。

 登場するのは軍人とその妻や家族、そして使用人などで、服装や態度で上下関係がはっきり示されます。タイトルで一目瞭然ですが、私の予想を上回る卑猥さで、そこまで露骨に性的な描写をする意図は何なんだろう…と考えたりもしました。でも、散りばめられ、明かされない謎たちのおかげで、好色を指すスケベ(助平)なこと以外の、色んな可能性を考える時間にもなりました。

 出演者は17人と多い目で、そのうち客演は4人です。ほとんど劇団員で構成された座組みですが、演技の質感や作り出される空気に一貫性は感じませんでした。たとえば、敢えて空けた間(ま)なのか、ミスで時間が経ったのかが判別できないなど、私にとってはバラバラと言っていい印象でした。有料パンフレットによると、脚本中心にして統制を取るよりも、俳優それぞれの体のあり方を重視されたとのこと。集約より拡散を狙ったのかもしれません。

 サルマン中佐(喜安浩平)の白髪の母親サーシャ役の永井幸子さんは、ドキっとするような際どいセリフを、とぼけた演技でスコーンと真っ直ぐ伝えてくださるのが痛快。声も小気味よく響きました。
 シェパード少佐役の西山宏幸さんはさすがに歌がお上手で、耳に嬉しい歌声を聴かせてくださいました。
 喜安浩平さんが長いセリフを一人で静かに語る場面があり、堂々としている割に内容が支離滅裂で可笑しかったです。喜安さんはどんな空気を作ろうとしているのかが、体と声からはっきり伝わる演技をされるので、存在感も大きいです。作・演出を担当されているせいもあるかもしれません。他の俳優との差が気になりました。

ネタバレBOX

 シーツやテーブルクロスに文字映像を映して時間の経過などを説明し、場面転換します。俳優が持っている布の上の文字を読むので、ちょっと不安定なのがスリリングで良かったです。

 好色な上司への贈り物を選ぶため、軍人たちが色んな種類の“おとなのオモチャ”の品評会を開催し、実物のバイブレーターが出てきた時はドン引きしてしまいました…。どんどんエスカレートして、手裏剣かブーメランのような不思議な物体(これもオトナのおもちゃという設定)が取り出された時は笑いました。

 遠隔操作ができるリモコン付きのバイブレーターは、見えない主従関係を想像させます。誰がそのスイッチを持っているのかもわからないので、私は天下りの上司が大勢いる公的機関の伏魔殿のようなイメージを思い浮かべました。八方ふさがりの醒めない悪夢が、カラっと乾いた無機的な会話の背景になって、空恐ろしいです。

 新人メイドのタミナ(角島美緒)が後半では昇進しており、かつての先輩メイドに高圧的な態度を取っていました。気持ちいいぐらいの下剋上です。ただ、昇進理由は曖昧。
 ワンダー大尉(寺井義貴)が芝生に這いつくばって探しものをするのを、メイドが見下ろす場面もあり、そこでも雇い主と使用人、もしくは男女の地位の逆転が表されました。軍内の男たちのゲームに入り込んで必死になっている内に、いつの間にかメイドよりも地位が低くなっている…。その様は滑稽で哀れです。

 複数の夫婦や若いカップルが登場しましたが、妊娠・出産・教育など、子供にまつわるエピソードはなかったですよね(たぶん)。そもそも“オトナのおもちゃ”自体が快楽目的の道具であり、生殖行為に直接は結び付かない不毛さがあります。相撲を取ったり、スイッチを落としたり、探したり…オトナたちが戯れに逃げ込んだあの中庭は、社会から隔離され、宙に浮かぶ楽園とも思えました。

 女性同士がじゃれ合う様子は可愛らしいし、キスシーンも美しいなぁと思いました。個人的にメイド服も好きなので(笑)、眼福でした。タミナ役の角島美緒さんは後半の凛とした立ち姿に説得力があり、おろおろしていた新人時代からの豹変っぷりが良かったです。
椿姫

椿姫

カンパニーデラシネラ

シアターX(東京都)

2016/03/24 (木) ~ 2016/03/31 (木)公演終了

満足度★★★★★

物語性豊かな身体表現で悲恋を綴り、社会を映す
 パントマイム、ダンス、お芝居で、男女の恋愛の駆け引きを華麗に綴っていきます。ほぼ何もないと言っていい舞台空間ですが、机、イスなどの小道具を生き物のように使いこなし、ドラマティックな場面を次々と繰り出していきます。舞台上下(かみしも)に設置された照明器具もイスや机と同様に存在感があり、照明の明かりから生まれる光と影はもちろん、劇場内の木調の壁も活かしていました。

 机を並べて大きなテーブルにすれば晩餐会、机上を歩けばファッションショー、テーブルの下にもぐり、また上にのぼる動きを大勢で組み立てれば、人間の上下関係が見えてきて、社会そのものが立ち上がります。身体表現で描く無言の群像劇はシビれるかっこよさでした。
 衣装(駒井友美子)も良かったですね~!男性はスーツのアレンジ、女性は夜会服系のワンピ-ス。出演者の個性、体型にピタリと合っていて、それぞれに色とデザインが違うので、すぐに見分けがつきます。照明で生地の艶と質感も変化し、スカートの裾が揺れ、ジャケットの前身頃がはだける様も絵になっていました。

 恥ずかしながら『椿姫』はオペラしか観たことがなく、原作小説に基づいたエピソードや演技については詳細まで理解できたわけではありませんでした。ただ、言葉ではなく動きや表情、視線から浮かび上がってくる物語は雄弁で、観客に向かって発せられていることがわかるから、私も常に前のめりな気持ちで受け取っていくことができました。舞台の作り手が媚びることなく、観客に物語を伝えようとしている、その姿勢がはっきりと出ているのが素晴らしいです。

 娼婦マルグリットに恋する青年アルマンを演じた野坂弘さんは、目が大きくて表情が豊か。コミカルで瞬発力があり、無言でも多くのことを瞬間的に語っていました。驚いたり悔しがったりする時に、とっさに漏れ出る声のバリエーションが多いのも魅力でした。
 アルマンが恋する椿姫ことマルグリット役は崎山莉奈さん。細い身体と少し子供っぽい表情は可憐な美少女の印象ですが、ダンスはとても力強いです。カクカクと体が折りたたまれていくような演技や、ピタっと静止したかと思うとすぐに動きだす所作に見入りました。

 メガネをかけた男性で、「私」こと作者のデュマ・フィス役を演じた斉藤悠さんは、ハリウッド映画に登場するイタリアン・マフィアみたいにスーツが似合う!クールなヒール役が板についていて、どうかと思うほどかっこ良かったです。アルマンと女性を取り合って対立する場面にゾクゾクしました。
 キレのある素早い動きが印象に残った短髪の鈴木奈菜さんは、Noismにも参加されているダンサーでした。彼女が動くと風が見えるようでした。

ネタバレBOX

 男が女を口説こうとすると、女はまんざらでもない素振りをしながら、すり抜ける。互いの体の一部に腰掛け合って、もたれかかるけれど、素早くかわす…1組のカップルが、人類が繰り返してきた男女の闘いの歴史を示していきます。やがて挑発的な美しい娼婦たちが闊歩するなか、アルマン(野坂弘)とマルグリッド(崎山莉奈)に焦点が当てられていく…導入から魅了されました。

 客席に向かって女性が1人で笑う場面は、他人を嘲笑するうちに自分自身のことを笑い、憐れんでいる姿に見えてきます。ガクっと素早く落ちてから、ゆっくりとさらに下降する動きに人間の堕落を見ました。アルマンが「彼女を愛してる」と下手で真剣に独白すると、上手で華麗に座っていた「私」が鼻で笑ったんです…く~面白い!

 女性が無理やり「Bet!」と言って、男性に賭けさせるギャンブルの場面がコミカルで可愛らしかったです。おどけた声と身振りが可笑しいんですよね。カンパニーデラシネラの公演で藤田桃子さんがよく担当されている楽しい時間が、若手にも受け継がれているのだなと思いました。

 マルグリッドの死後に彼女のノートがオークションで高値で取引される場面が、中盤に挿入されていたように思います。原作を知らない私には少々難解で、できれば何かしらの説明(言葉でも演技でも)や、構成の変更があった方がいいのではないかと思いました。わかりやすくする必要はないという判断なら、それはそれでいいとも思います。

 椿の花がぽとり、ぽとりと落ちてくるとても美しいラストシーンで、携帯が鳴り響きました…しかもすごく長い時間…鳴らした人、猛省して頂きたいです…。

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