園田喬しの観てきた!クチコミ一覧

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若き日の詩人たちの肖像

若き日の詩人たちの肖像

平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co.

戸山公園(箱根山地区)陸軍戸山学校軍楽隊 野外演奏場跡(東京都)

2024/05/17 (金) ~ 2024/05/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

新宿区にある「戸山公園」にて上演された野外劇。近隣には学習院女子大学、早稲田大学、都立戸山高校などがあり、学校に囲まれた、緑豊かで人々の行き交いも多い公園でした。18時30分開演、上演時間60分。ゆっくり日が暮れていき、闇が広がり、表現が街へ伝播していく。野外劇の醍醐味のひとつに「街との一体感」があるけれど、今作は「ステージを基点に想像力をどこまで広げられるか?」という、表現の能動的な営みを感じることができました。

ネタバレBOX

森の中に佇む野外特設ステージ。夕景から夜景に変わる自然を背景に上演する。これらの環境要因に強いこだわりを持って企画されたことがよく伝わってきます。正直、この上演環境であれば、何を上演しても観客の満足度は高いと思う。それを踏まえて、どのようなテキストを乗せるか? についても熟考し、迷いながら、悩みながら、でも信念を持って上演に至ったのだと想像します。戦争に翻弄された時代、若き芸術家たちの苦悩、不安定な社会状況など、カンパニーの実存と重なる内容だと感じました。反戦に対する想いは勿論ですが、芸術家たち自身の自我、葛藤、絶望などを描いている点も印象深かったです。
略式:ハワイ

略式:ハワイ

劇団スポーツ

OFF OFFシアター(東京都)

2024/05/15 (水) ~ 2024/05/19 (日)公演終了

実演鑑賞

まだ学生劇団だった「劇団スポーツ」が7年前に上演した作品の、リクリエイション版だとか。タイトルは一緒ですが、内容は新作に近いのかも。当日パンフに記載されたキャラクター解説が劇中より詳細に設定されており、大幅な加筆修正が想像できます。

ネタバレBOX

17歳の高校生たちによる学園青春ドラマ。体罰に近いハードな練習を課す剣道部に所属する主人公。残りの高校生活をこのまま剣道部に捧げるべきか? について悩み、クラスメイトに誘われるまま高校生バンドへ加入。剣道からバンド活動にシフトチェンジしようとしたその時、「10年後の自分」を名乗る青年が現れ、剣道部を辞めないよう提言する…。

ネタバレOK欄ですが、ネタバレしない方が観劇を楽しめると思うので、大きなネタバレは避けます。僕の感想は、昨年内田さんがヨーロッパ企画へ客演した影響が、今作に濃く出ているなぁ…というもの。勿論悪い意味ではなく、吸収力があり意欲的な若手劇団として目に写りました。
こどもの一生

こどもの一生

あるいはエナメルの目をもつ乙女

王子小劇場(東京都)

2024/05/15 (水) ~ 2024/05/19 (日)公演終了

実演鑑賞

出演俳優がとても良かった。このメンバーを集めた団体主宰・石澤希代子さんの熱意をひしひしと感じる。特別に目立つ奇異な存在…というより、気付いたら目で追っているような、落ち着いた狂気を放つ俳優たち。特に助川紗和子さんとムトコウヨウさんが印象的でした。

ネタバレBOX

原作は中島らも。複数回の上演歴を持つ人気作でもあります。ただし、今回の上演を観る限り、初演の1990年当時の時代背景や社会の空気をしっかり吸収した戯曲だと感じました(←そして、それは戯曲が優れている証明でもあります)。それらの要素を現代の内容に置き換えることは可能だろうけど、それでもどこか少し、2024年現在の日本の社会状況と融和しない世界観に、僕は感じました。原作自体も自ら「B級ホラー」と銘打っており、僕がホラー作品にやや疎いことも関係しているかもしれません。
TACT寄席

TACT寄席

東京芸術劇場

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2024/05/05 (日) ~ 2024/05/06 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

親子で鑑賞できる落語会。寄席や落語に関する丁寧な解説もあり、もちろん実演もあり、普段落語に触れない方が落語に触れる機会として、とても有意義な会だと思います。子どもたちも、ルールを守って上品に鑑賞していたと感じました。(もっとカオスな状況になってもおかしくないのに、良い観劇環境が保たれていました)。

ネタバレBOX

解説も丁寧でしたし、演目も「子どもが反応しやすい噺」を選んでいて、場内の雰囲気が良かったです。変わったフレーズや音へ反応が良かった印象です。落語上演を聴きながら、子どもたちの高い笑い声が響くのはとても良いなぁと思いました。やはり、寄席に来るお子さんは少ないので。紙切りは…、そりゃあ欲しいお子さんが多いですよね、大人でも欲しいし(笑)。
アリとキリギリスと

アリとキリギリスと

東京芸術劇場

ロワー広場(東京都)

2024/05/03 (金) ~ 2024/05/06 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

TACTフェス2024内のプログラム『TACTダンス』の公演。こちらは無料公演で、会場は劇場ロビー。天井が吹き抜けとなっており、屋内ですが開放感があります。この2点が、作品の広がりを、物理的にも心情的にも、拡張している印象を受けました。「アリとキリギリス〜♫」という振り付きのメインテーマがあり、何度も繰り返されることもあって、耳に残りやすかったです。

ネタバレBOX

ステージにポールが立ててあり、ポールダンスを取り込む構成でした。無料公演で多くの子どもたちが観る上演とポールダンスは相性が良いのかも。より伝わりやすかった気がします。ポール上から二階で鑑賞中のお客さんにアピールするなど、空間を立体的に活用している点も驚きました。童話をベースにしているからか、子どもたちの集中力も高かったです。
二人のアリス

二人のアリス

東京芸術劇場

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2024/05/05 (日) ~ 2024/05/06 (月)公演終了

実演鑑賞

TACTフェス2024内のプログラム『TACTダンス』の公演。衣装、小道具などは一貫してコンセプチュアルでキュート&ポップ。見た目の分かりやすさ、伝わりやすさなども考慮していると感じます。見ているだけで心踊る空気が会場内に流れていました。

ネタバレBOX

歌唱シーンなどもあり、音楽や声の要素で場内を盛り上げつつ、物語性も感じられる構成でした。若く自由奔放なエネルギー、作品性、そしてパフォーマーの特徴なども噛み合っている印象を受けました。
らくだ

らくだ

CHAiroiPLIN

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2024/04/12 (金) ~ 2024/05/05 (日)公演終了

実演鑑賞

小説、海外戯曲、落語など様々なジャンルを「ダンス公演」に仕立てて上演する「おどる」シリーズ。今回は古典落語『らくだ』に挑んでいます。長屋に迷惑ばかりかけるならず者の主人公・らくだ(これはあだ名で、人間です)をオクイシュージさんが演じています。CHAiroiPLINの他作品と比較すると、ダンス要素が少し薄めで、語り要素が少し多め。話芸である落語をリスペクトした構成バランスかもしれないし、あるいは、『らくだ』のドラマ性にスポットを当てたかったのかもしれません。

ネタバレBOX

落語『らくだ』における登場人物の役割は劇中に落とし込んでいるが、登場するキャラクターの性格などはややオリジナル要素を含んでいる点が興味深かったです。平たく言うと、落語版とは異なる印象が残ります。物語の展開細部も異なり、その差異にこそ「カンパニーが今作で描きたかったもの」が凝縮されていると感じました。らくだのダメ人間ぶりの「裏側」を描きたかったのかもしれないし、社会から切り離されてしまった人々の絶望や孤独を描きたかったのかもしれません。立川談志師匠は落語を「人間の業の肯定」と説明したと言います。この言葉を思い出した観劇体験でした。
TYM Traveling your memory

TYM Traveling your memory

東京芸術劇場

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2024/05/03 (金) ~ 2024/05/04 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ひびのこづえさんの衣装が印象深く、カラフルかつ幻想的。パフォーマーの身体と組み合わさることで、力強さや「生命」が感じられ、見応えのあるシーンが多かった。CGや生成AIではなく、生の舞台表現で見られる「景色」として、こんな画が創れるのか!? という驚きもあった。

ネタバレBOX

初演が富山県のオーバード・ホールで、富山をモチーフに創作されたとのこと。海や大地など、自然を感じさせつつ、逆に都会的なイメージも含まれているような気がして、東京芸術劇場での上演もピッタリはまっている印象でした。
Rinne

Rinne

東京芸術劇場

ロワー広場(東京都)

2024/05/03 (金) ~ 2024/05/06 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

東京芸術劇場B1Fのロビーに特設会場を設けた公演。通りすがり(と言ってもあの空間に来る人は劇場を訪れた人だろうけど…)の人を巻き込める、キュート&ポップな一作でした。

ネタバレBOX

「海」がモチーフのひとつになっており、魚や海老などの衣装やオブジェを用いた上演。ひびのこづえさんの衣装が印象的で、ダンサーが身に纏うと一段を映える。音楽、ダンサー、衣装、そしてアイディアの数々。その掛け合わせがよかったです。コスチュームプレイっぽさもある海洋生物を模した衣装を、次々と着替えながらシーンを構成するため、お子さんも飽きずに観賞できたのでは…?と思います。衣装の可愛らしさ、人間の身体のなまめかしさ、どちらも堪能しました。
オロチカラ~なまぐさ天狗は龍を追う

オロチカラ~なまぐさ天狗は龍を追う

東京芸術劇場

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2024/05/03 (金) ~ 2024/05/04 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

日本国内では上演機会が少なめで、やや珍しいジャンル「影絵芝居」の公演。インドネシアの伝統芸能「ワヤン・クリッ」を学んだアーティストが独自のアレンジを加えつつ、オリジナリティのある上演に仕立てている。

ネタバレBOX

「こどもからおとなまで誰もが楽しめるフェス」のTACTフェスの演目で、会場には多くのお子さんが観に来ていた。まず、この状況がとてもいい。影絵なので場内は暗いまま上演されるのだが、お子さんたちにとってドキドキの観劇体験になってくれたら…。影絵の種類も多く、民話や伝承をベースにした物語も明快で、伝わりやすい上演だと感じました。
Lay Your Hands On Me

Lay Your Hands On Me

コンドルズ

こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ(東京都)

2024/04/06 (土) ~ 2024/04/07 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

ハンドルズ(近藤良平と埼玉県内の障がい者が2009年に結成したダンスチーム)と、コンドルズ(主宰・近藤良平)によるコラボ公演。ハンドルズ8名+コンドルズ8名+近藤(両チームを兼ねる)の構成。プロデューサーは勝山康晴(コンドルズ)。オープニングシーンを見た瞬間、「素晴らしくサイコーじゃん!!」と思いました。8名×2チームなので、基本的にハンドルズ1名+コンドルズ1名のペア構成。全員がコンドルズの舞台衣装としてお馴染みの学ランを着用し、スタンディングで踊る人と車椅子で踊る人が入り混じる。何より圧倒的に「コンドルズのダンスシーン」になっている!! 舞台上はフラットで、参加者たちの関係性も極めてフラット。ひとつのダンス公演に関わることで、対等な立場で接しているチームに見えました。

ネタバレBOX

コンドルズ公演は、集団で踊る際に必ずしも振り付けが完璧に揃う訳ではありません(勿論ほぼ揃っていますが、多少ズレたりすることも)。振りが完璧に揃うこと以上に大切にしていることがあり、揃うことが最重要項目ではないのです。このことが「ハンドルズ×コンドルズ」コラボに大きく活かされている。集団群舞で動きが揃わない。それでもダンス表現は成立する。そのことを熟知する近藤良平さんだからこそできる公演だと感じました。オープニングシーン以降も、コンドルズらしいシーンの連続。笑いあり、スタイリッシュあり、音楽あり、参加者それぞれの個性あり。元々多様性の高い集団だったコンドルズだからこその、最高のコラボ公演だと感じました。
ナマリの銅像

ナマリの銅像

劇団身体ゲンゴロウ

新宿スターフィールド(東京都)

2024/03/27 (水) ~ 2024/03/31 (日)公演終了

実演鑑賞

作品は再演ですが、僕は初見でした。この団体を観るのも初。団体名から「身体表現を活かした作風?」と想像しての観劇。15世紀に起きた、島原の乱、そして天草四郎をモチーフにした一作。時代物? と思ったけれど、パチンコ店などが登場し、時代をクロスオーバーさせた設定になっていました。パラレルワールド的と捉えられるかもしれないし、機械文明と魔法文明の融合のような、SF調の設定なのかも。

ネタバレBOX

箱馬(木箱)と木材を組み合わせたシンプルな舞台美術をブロックのように組み合わせてシーンを構成し、そこに俳優たちの身体表現を重ね合わせていく…という創作に、僕には見えました。ミュージカル調のシーンが挿入されていたり、「身体」を用いた表現への興味・関心が高い団体だと思います。ただし、ひとつひとつのシーンに粗さも見え、そこは今後の伸び代であり、課題かもしれません。今回は2時間ものでしたが、身体表現との相性という観点から、短編などもハマりそう。
Oh so shake it!

Oh so shake it!

TeXi’s

北とぴあ カナリアホール(東京都)

2024/03/20 (水) ~ 2024/03/24 (日)公演終了

実演鑑賞

上演会場は王子にある「北とぴあ カナリアホール」。ここは天井のシャンデリアが特徴的なんだよなぁ…と考えつつエレベーターで14階へ上がる。受付には喪服のスタッフさん、会場内も喪服のスタッフさんが。なんと客席も黒い服装が多め。客入れの音楽が静かに流れるなか、席に座り天井のシャンデリアを見上げ、このセレモニー感に「なるほど」と思う。タイトル通り、TeXi'sによる「擬似的葬儀」をモチーフにした一作。(上演が始まると、ステレオタイプな葬儀風景をあまり連想させないため、そのギャップも印象的でした)。

ネタバレBOX

主な登場人物は3人。オンラインゲーム内で出会った若者らしい。3人はお互い顔も本名も知らず、4年の長い年月をゲーム内で共にし、コミュニケーションを深めてきた。コロナ禍もあり、社会との接点を上手く作れずストレスを抱える3名は、ある者は引きこもり状態となり、またある者は社畜状態を連想させるなど、現代社会での「生きづらさ」と直面している。

発信上手の受信下手。幼少期からSNSに囲まれて育った世代の、自我や生きづらさを強烈に感じる…と書くと、世代間ギャップの論調に陥ってしまうかもしれないが、観劇しながら「…生きづらいのだろうなぁ」と感じてしまいます。人間は大なり小なり生きづらさを抱えるものです。でも、若い世代のそれは、世代特有の形をしているのだろうし、その姿を覗き込みたい衝動に駆られました。

ただ、物語全編に登場するオンラインゲームの描写が、ゲーム知識や経験の有無で理解しやすさ/しにくさが生じるなど、やや分かりにくい構造になっていたのは残念でした。時系列を組み替え、シーンを何度も反復させるなど、全体的に観劇難易度高めの「ハードモード」に感じられました。

生きづらさを抱える3名の若者が「直接会いたい」「いや会いたくない」と各々の意思を錯綜させ、その結果が「擬似的葬儀(=これまでの関係性を終わらせる)」であれば、それは3名にとって悪い結論ではないはず…と思いたい。個人アカウントを急に削除するような「死」であって欲しい。その先に、少しでも希望が見えることを望みます。
ホームシック!?

ホームシック!?

演劇ユニットタイダン

荻窪小劇場(東京都)

2024/03/15 (金) ~ 2024/03/17 (日)公演終了

実演鑑賞

舞台奥に生バンド(ギター・キーボード・パーカッション・トランペット・etc)を配置し、ダンスあり、生演奏による劇中曲あり、のミュージカル調上演。個人的には小道具へのこだわり方に興味を持ちました。きっと、観客に見せたい「画」が沢山あるのだろうなぁ。 老舗の温泉旅館を生家にもつ姉弟。訳あって実家を離れた姉は、これまた訳あって15年ぶりに帰郷する。温泉街の観光協会を切り盛りする幼馴染み、姉が去った後に一人で旅館を継いだことを根に持つ弟、年老いた母。15年ぶりに過ごす故郷が迎える結末とは…。

ネタバレBOX

タイダンを観るのは2回目で、前回はオムニバス公演のため、本公演は初。小劇場の作品は生演奏が少ないため、バンドを入れてくれる公演はそれだけで嬉しい。劇中曲もダンスも、出演俳優たちも、キャッチーな雰囲気で良い空間形成ができているなぁ、と感じます。構造的な意味で空間がコンパクトなため、文字通り「所狭しと駆け回る」上演。それが良い効果になっていました。

その「所狭し」にも関わらず、シーンに登場させる小道具へのこだわりが強く、色々なモノが飛び出してきたことが印象的でした。段ボール製の書き割りや、自作のオブジェ?など。一度出てきた小道具をひっくり返すと別の小道具に様変わりするなど、各所に工夫が感じられます。おそらく、創作の根底に「見せたいシーン・画」があり、そこから逆算して創っているのかも。その意味で、音楽、ダンス、そしてビジュアルにこだわる作風なのだと想像しました。
イノセント・ピープル

イノセント・ピープル

CoRich舞台芸術!プロデュース

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2024/03/16 (土) ~ 2024/03/24 (日)公演終了

実演鑑賞

副題の「〜原爆を作った男たちの65年〜」が正に的確で、1945年8月に日本へ投下された原子爆弾の開発に携わった米国人たちの半世紀以上に渡る物語。史実を織り交ぜて描かれる群像会話劇は、友人や家族の相関を丁寧に見せる人間ドラマ。かつ、日本人作家だからこそ書けたであろう踏み込んだ台詞も多く、良い緊張感を保ちつつ観劇することができました。

ネタバレBOX

若き青年たちが原子爆弾の開発・製造に携わった1945年と、太平洋戦争後の20世紀後半の時間を行き来しながら物語は進みます。朝鮮戦争、ベトナム戦争、イラン・イラク戦争など、常に戦争の存在を感じながら過ごす日常は、観劇者である私たちのそれと、ある意味通じるところがあると言えるでしょう。登場人物たちの人物相関は時間経過と共に変化していき、戦争や原爆が各々の人生に大きな陰を落としていきます。

劇中盤から、登場人物たちによる原爆の肯定や人種差別が、はっきりした口調で語られます。(日本人観劇者には特に強く感じられる)強い言葉の数々は、米国の正統性の主張、そして自身たちの人生肯定を連想させ、かなり踏み込んだ表現になっています。「原爆が太平洋戦争を終結させた」という論調を、日本人劇作家がこの角度から執筆したことは、かなり珍しいし、同時に意義があると言えるでしょう。鋭い台詞の数々に感情的にならず俯瞰的に観劇できるのは、劇作、演出、そして出演者による明確な表現意思が、しっかり客席へ届くから、だと考えます。

原爆開発時を回想するシーンでは、登場人物たちの内面や心の動きが露見します。ある者は開発を強く後悔したり、またある者は殺傷能力の生体実験に従事したり。命懸けで製造作業に参加し、目の前の使命に没頭し、様々な人間ドラマが展開され、モチーフが原爆である以上に、観客が受け取れる感情は多種多様。極悪な殺人兵器でありながら、ひとつの科学技術が発展していく過程に発生してしまう「陰」から目を逸らさない一作と言えます。

観終わってみると、タイトルの『イノセント(無垢)・ピープル』の意味を噛み締めたくなります。内容、副題、そしてタイトル。それらを反芻しながら、作品の感想を頭の中で巡らせる公演でした。
波間

波間

ブルーエゴナク

森下スタジオ(東京都)

2024/03/15 (金) ~ 2024/03/17 (日)公演終了

実演鑑賞

僕は、現実の心残りが夢に作用してしまうことがあります。「先週会えなかった人が夢に出てきた」「先月訪れた飲食店が夢に出てきて〜」、等々。今作は、自死を望む青年が、最後の朝に見た夢の話。夢の中には青年の「過去の記憶」が度々登場して…。

ネタバレBOX

「夢の話」なので、わりと簡単に「何でもアリ」の世界を構築できることは、演劇上演と相性が良いと思います。舞台上に並べられた20脚程度のパイプ椅子を、タテ・ヨコなどに何度も並び替える演出があり、青年の脳内風景を連想したり。青年が語る「夢の話」は、徐々に過去の記憶が混ざり、自身を自死まで追い込んだ(と予想できる)中学時代のいじめ体験が紐解いていく。登場人物たちが、どのような経緯を経ていじめと関わるようになったのか? が描かれ、その感情のすれ違いが切ない。物語は悲しい結末で幕を下ろします。「どうしたら止められたのだろう…?」、終演後はそんなことを考えました。
あたらしい朝

あたらしい朝

うさぎストライプ

こまばアゴラ劇場(東京都)

2023/05/03 (水) ~ 2023/05/14 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

まず何より、出演者たちの好演が光る作品だと思います。リアリティと特異性の境界を行ったり来たりする、独特の存在感を放つ俳優たち。この身近な存在があるからこそ、演劇上演としての魅力が増したことは間違いないでしょう(勿論その演出を手掛けた演出家にも拍手)。コロナ禍に執筆された一作で、旅や人間関係に想いを馳せる物語は、ステイホームやソーシャルディスタンスを経験した人々から共感を得やすく、同時代性の高い作品と言えます。個人の夢の中を散策するような私小説風の語り口や、ファンタジー要素を含む世界観も良いアクセントになっていました。

半魚人たちの戯れ

半魚人たちの戯れ

ダダ・センプチータ

王子小劇場(東京都)

2023/04/13 (木) ~ 2023/04/16 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★

直感的に浮かんだのは「かけ蕎麦みたいな上演」という感想でした。戯曲(物語や詩など)×俳優というシンプルな要素で構築する作品世界。セットらしいセットもなく、ほぼ素舞台と言えるでしょう。ある意味で「気」の魅力が求められるため、潔い方法を選択したと思います。言葉にウエイトを置く一作と言えますが、ストーリー性より、言葉の響き方や詩のような機能性を重視した作風なのかも。シーンひとつひとつは輝くものの、全編を通してややまとまりのない印象が残りました。ただ、どこか沸点の低い会話を基調とした現代口語劇は、若い団体の世代感覚を反映している気がして、妙に心に残りました。

本人たち

本人たち

小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク

STスポット(神奈川県)

2023/03/24 (金) ~ 2023/03/31 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★

これまで過去上演を何作か観劇してきて、その飽くなき実験精神をひしひしと感じてきた団体です。「舞台芸術とは何か?」について、ストイックに解体・再構築を試みる姿(僕にはそう見えます)は傍から見ても刺激的です。今作にもその精神を感じつつ、でも同時に、観客への依存度がやや高い印象も受けました。乱暴な言い方をすれば「観客の心持ち次第」というか、観客の積極的な作品没入・作品解釈を必要とする一作だと思います。上演会場で体験した諸々を観客自身が持ち帰り、各々の解釈で時間をかけて自身の血肉とする。そういう積極性が問われる作品と言えるでしょう。第一部、第二部と分かれており、その双方に多くの「言葉」が登場します。その言葉の海を漂い、脳内で反芻する心地良さも感じました。

きく

きく

エンニュイ

SCOOL(東京都)

2023/03/24 (金) ~ 2023/03/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

タイトルの『きく』。この「きく(聞く)」に特化した演目で、コンセプト通りのパフォーマンスが展開されます。あらゆる角度から「聞く」ことの実例が提言され、「それは何か?」「どういうものか?」について考察・検証が繰り返し行われ、それらに関する明確な解答はなく、受け止め方も観客それぞれ。それでいて多くの表現が日常的であり、私たちの生活や人生に深く関わる内容となっています。実験的パフォーマンスと捉えることもできるけれど、僕には非常に刺激的な体験であり、自身の記憶や経験に変換しやすい身近な一作に感じられました。観劇後は「聞くこと」に関する様々な解釈や可能性が頭の中を駆け巡り、作品の余韻にじっくり浸ることができました。

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