パンドラの鐘
Bunkamura
Bunkamuraシアターコクーン(東京都)
2022/06/06 (月) ~ 2022/06/28 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2022/06/25 (土) 18:00
劇場に入ると、明るく照らされた舞台は素舞台という以上にむき出しで、舞台の向こうにある搬入口まで見通すことができた。
劇場の向こう側のコンクリートの壁や機構を照らす蛍光灯の白さを遠目に観ながら、これから始まる物語に思いを馳せた。
……まだ明るい客席通路をひとりの人物が歩いていく。
そのまま舞台に上がり、倒れ込むように床に耳を押し付けた。それがミズヲだった。
観られなかった昨年の上演では、ミズヲとオズを同じ役者さんが演じたそうだ。同様にヒメ女とタマキも一人二役だったらしい。
そちらも観てみたかったな、と思った。というのは、狂王と考古学者が一人二役なのを観て、他のキャストはなぜそうしなかったのか、と思ったからだ。
2つの時代を同じキャストが演じることで見えてくるモノもあるだろう。一方で変わってしまう部分もあるかもしれない。
2つの時代のうちのひとつは、上記のあらすじに「太平洋戦争開戦前夜の長崎」と記されているけれど、正直言って終盤までそれに気が付かなかった。服装も交わされる会話の中の固有名詞なども具体的にその時代を示すものはないよう描かれていたからだ。もしかすると意図的なミスリードではないか、とも思ったけれど、あらすじに明記されているのだからそれは考え過ぎなのだろう。
その時代なのだ、と気づいたのはパタパタとさまざまなピースが繋がっていくときだった。
古代の王国と太平洋戦争開戦前夜の長崎が、そしてミズヲの記憶と彼の名前の意味をはじめとするたくさんのモチーフが、それぞれにつながり怒涛の勢いで感情を揺るがしていく。パンドラの鐘に隠された秘密。太陽。水を求める人々。
そんな中でのヒメ女の決断。それを見守るミズヲ。
今回が初舞台だという成田凌さんから、舞台女優の代名詞のような白石加代子さんまで、キャストは皆さんそれぞれ魅力的で、個性的な登場人物たちが皆愛しく感じされた。
演出や美術も印象的だった。
冒頭で空っぽだった舞台に立てられた4本の柱。周囲には紅白横縞の幕が張り巡らされる。
4本の柱のひとつに太い綱でつながれた釣鐘はそのまま能の『道成寺』を思わせた。小鼓の響きも劇中で聴こえていた。他にも随所で和物のニュアンスが加わって、無国籍な古代王国の印象をこの国に繋ぎ止めていた。
ラストで、舞台の向こうの搬入口が開かれ、現実の現在の渋谷が見えた。
劇中で問われた何かが、現実の街に重なる。
ふと蜷川幸雄さんの演出を思った。そういえば、この公演はNINAGAWA MEMORIALと銘打たれている。演出の杉原邦生さんが意図的に蜷川さんのテイストを取り入れていらしたのだろう。
この舞台を観ることができてよかった、とまた思った。
美しきものの伝説
劇団東演
俳優座劇場(東京都)
2022/06/16 (木) ~ 2022/06/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
冒頭。「行動を!」と熱く語る大杉栄。それを軽くいなす堺利彦とのやり取り。
大逆事件後の社会主義運動にとっての冬の時代を乗り切るべく売文社を設立したばかりの場面だ。
このやり取りはこのあと劇中で何度か繰り返され、それぞれの状況の変化を示したりしている。
そういえは、この芝居の中で言及される大逆事件や幸徳秋水、田中正造、ロシア革命などについての印象はみな舞台を観て得たものだ。学校で教わった机上の知識とは異なる、人の営みとしての歴史。創り手の主張も含めて、そういうものをこのところずっと劇場で受け取っている気がする。
社会主義者たちや新劇劇団の人々。それぞれの思想や芸術を実現させるための道を模索し、民衆の力を信じようとしていた。
疾走する彼らを阻むように時代は閉塞感を増していく。
登場人物ひとり一人の動向がその閉塞感と重なっていく。
物語の終わりが近づいて「一本の杭に花を飾り人々が集まれば、祭りになる」そういう大杉栄の台詞があった。
2幕が始まるときの幕間狂言めいたやりとりの中で語られた大杉と伊藤の運命は、震災直後に憲兵に囚われて死ぬというものだった。
真っ白な衣装に身を包んだ大杉栄と伊藤野枝。その運命と先に挙げた彼の言葉が響き合って胸にしみる。
祝祭をイメージさせるラストシーン。彼らの夢見たものは実現しただろうか。
劇場の壁には参加した劇団の過去公演のポスターが重なり合って貼られていた。彼らが積み重ねてきた年月。この舞台で描かれたさまざまな葛藤を受け継ぎ、戦ってきた人々がここにいるのだと思った。
lucK girL blooD tuesdaY
ーヨドミー
TACCS1179(東京都)
2022/06/15 (水) ~ 2022/06/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
物語はいきなり殺人の詳述で始まった。
そこから続くのは、一見平凡なしかしどこか不自然な家族のやり取り。そしてしだいにわかってくるその理由。
家族の身勝手さや隣人の過干渉だけでなく、恋人との未来を夢見ることが彼女をいっそう追い詰めていく。
息を詰めるように舞台上で進んでいく出来事を見つめる。そういえば、観終わって字を書こうとしたら手が震えていた。集中し過ぎていたからだろう。
彼女の感じている閉塞感とやるせなさに共鳴し、悲劇に向かっていく緊張感が途切れない約2時間。
事実だけ見れば何の救いもない終わりなのに、事件が起きた時の家族の結束とある種の高揚を描き、そしてあり得たかもしれない幸せな日々を見せることで、悲劇は悲劇のまま後味の悪くない幕切とした手腕が見事だった。
キャストもそれぞれ印象的で、見応えがあった。一見身勝手さや頑固さ、あるいは投げやりに見えた言動にも、それぞれの思いや事情があるのだとわかってくる終盤の展開が心地いい。
面白かった、というにはつらい内容だけれど観ることができてよかったと思う。
嵐になるまで待って
CfY
新宿村LIVE(東京都)
2022/06/15 (水) ~ 2022/06/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2022/06/18 (土) 14:00
演劇集団キャラメルボックスで何度も上演された戯曲とのことだけれど、自分は初見。
ほとんどの人には聞こえない「第二の声」を巡るサスペンスなのだけれど、大切な人を守ろうとする人々の物語でもあって、じんわりと切なく愛しい舞台となっていた。
なにしろ初見なので、皆さん当て書きかと思うようなハマり役だと感じたけれど、ウィキペディアで過去上演の配役リストを見たりするとだいぶイメージの異なる方もいたりして興味深い。
三浦さん演じる波多野の威圧感と哀愁が特に印象的で、雪絵役の椎名さんの凛とした美しさが波多野の行動に説得力を加えていた。
主人公ユーリを演じる中舘さんの強さともろさ、彼女の思い人である幸吉役の野口さんの誠実さと優しさ。クライマックスでの毅然とした演技はもとより、序盤の電話でやりとりする2人の微妙な関係性がとても素敵だった。
滝島役 遊佐さんと部下の勝本役 関根さんコンビのテンポのよさ。
チカコ役の環さんのイキイキとした少女らしい魅力。
高杉役 土矢さんの旧友の死因へのこだわり。
津田役 浮谷さんの抜け目なさととぼけ具合。
そして、広瀬教授役の近江谷さんの飄々たした面白さは反則級だった。
ラスト・ナイト・エンド・デイドリーム・モンスター
悪い芝居
新宿シアタートップス(東京都)
2022/06/02 (木) ~ 2022/06/12 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2022/06/12 (日) 13:00
失った記憶と入り組んだ後悔を解きほぐすような135分の末にたどり着く希望。見知らぬ人々の物語として始まり、最後にはでは登場人物それぞれの幸福を祈る気持ちで手を叩いた。ラスト間近の父と娘の場面が美しく胸に残る。
Secret War-ひみつせん-
serial number(風琴工房改め)
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2022/06/09 (木) ~ 2022/06/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2022/06/11 (土) 18:00
細菌兵器などの研究が行われていた軍事研修施設で、タイピストとして働いていた少女が和文タイプの控えを持ち帰り保管していた、というのは実際にあったことらしい。
その事実をもとに、現代のジャーナリストの取材の様子と当時の出来事を絡めつつ描いたこの作品。
社会的な題材を丁寧に取材し、問題意識とエンターテイメント性を両立させる作風はいかにもserial numberらしいと感じた。
描かれている内容は重い。戦場ではなく研究所で行われていた「秘密戦」。人(や牛)を殺すための研究への罪悪感と科学者としての探究心の拮抗。
マキノノゾミさんの戯曲『東京原子核クラブ』にもそれに似た葛藤が描かれていたが、今作では人体実験にまで及ぶ「秘密戦」の壮絶さとそこに携わる人々の思いを描いていく。
ことに、主人公が科学者ではなく、女性であるが故に科学者を目指すこともできなかった和文タイピストの少女であり、彼女をめぐる人々の細やかな感情の機微が描かれていたのが面白かった。
研究者たちの葛藤に、陸軍中野学校からきた浦井の存在が緊張感を増す。
日本名を捨てて中国で暮らす科学者が当時の若手2人のうちどちらかであろうと思いつつ観ていたが、同時に取材する側の素性にも仕掛けがあり、またある歴史的な事件の起きるタイミングも重ねて描いて、物語にもうひとつ奥行きを加えていた。
神遊(こころがよい)―馬琴と崋山―
劇団扉座
座・高円寺1(東京都)
2022/06/08 (水) ~ 2022/06/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2022/06/11 (土) 13:00
舞台を観て、崋山という人がどういう人だったのか調べてみたくなった。それくらいこの人物が魅力的に描かれている。冒頭の厚木の場面で、少女お竹が「惚れた!」というのも無理はない。
そんな崋山との交流を通して、馬琴という人物を描き出しているのが『神遊』だ。
2人のやり取りが印象的な場面のひとつに、馬琴の息子 宗伯の死に崋山が駆けつけるくだりがある。
死者を前にして「我が子であっても死ねば腐る」という辛辣な弁舌とある種の客観性を持って息子の凡庸ぶりを嘆く馬琴。
その辛辣さに怯むこともなく、遺児のために友であった死者を描こうとする崋山は、さりげなく宗伯が「いつの日か馬琴を超える」と酒の席で豪語していたと語る。
意外な息子の言動に驚きつつ喜ぶ馬琴。
その場面を観ながら、その話はどのくらい本当だったのだろう、と思った。
早世した息子の遺骸を前に、さまざま無念や後悔の念を抱いている馬琴への思いやりはあっただろう。
酒の席で「オヤジの執筆の手伝いをさせられている」と言ったかもしれない。あるいはそれを聞いた崋山の方が「そんならオヤジ殿の技術を盗んでやれ」と唆したのかもしれない。
嘘というのではない。若くして亡くなった友と遺された家族の心に寄り添ったのではなかったか。
これは一観客の勝手な想像に過ぎないけれど、この物語の崋山はそういう粋ができる人物に見えた。
快活で社交的な崋山とは反対に、馬琴は人嫌いと言われる気難しい人物である。
崋山と待ち合わせた座敷で、酒を断り茶を所望する。絵草紙で読んだと『八犬伝』を褒める芸者に憤慨して声を荒げる。
けれどその気難しさはある種の不器用さのように見える。
酌婦や花魁に読ませるつもりで書いたのではない、という言い方自体は酷いけれど、聞きようによっては声を荒げたことを悔いているようにも思えた。文字が読めない人を責めるのでない。『八犬伝』の人気に便乗して草紙や絵巻物に盗用されていることに腹を立てているだけなのに、大人げない態度であったと。
茶が熱過ぎたことを謝る女将に「自分が熱い茶を所望したのだ」という口振りはぶっきらぼうだけれど、相手を責めるつもりはないことは感じられる。
人の欠点ばかりが目につくと自らいう馬琴は、その卓越した人を見る目と不器用さで、とっつき難い人物として描かれる。
ことに息子の嫁 お路に対する言動は観ていてハラハラするほど辛辣だ。
これは崋山と馬琴の物語であると同時に、2人に関わる人々、特にはな竹とお路の物語でもあった。
12歳のときに出会った崋山を忘れられず、江戸で再会を果たすはな竹。投獄された崋山のために奔走し、馬琴の元へも殴り込み(!)に行く。その際の啖呵は切実でかつ小気味良い。
嫁として気難しい舅である馬琴に仕え、彼が失明してからは『八犬伝』の代筆をもつとめることになるお路。夫を亡くしたのちも、子どもや姑の世話をしつつ気難しい舅である馬琴につくす。
ことに印象的だったのは、失明した馬琴がお路に「お前のほかにおらぬ」「力を貸してほしい」という場面。
お路が静かに泣く。その先のいっそうの苦労は目に見えているが、馬琴に頼られたことで報われたという思いもあったのかもしれない。
人の思いというのは通じるものなのだなぁ、と思った。
物語は、「インチキ講釈師」と名乗る司馬文耕の語りで綴られていく。
それによって登場人物の目線だけでは語りきれない馬琴と崋山の生涯のあれこれを知ることができる。
冒頭、旅の途中で厚木に立ち寄った崋山とのはな竹や駿河屋彦八らとの出会いが描かれる。厚木での上演はさぞ盛り上がっただろうと思うと、そこに自分がいなかったのが本当に残念だった。
厚木での出会いだけでなく、画商や弟子など崋山の周囲には多くの人が集まる。彼らとの関わりもまた丁寧に描かれる。
後半では、多くの人から愛された崋山が時代の波に飲まれ、投獄の憂き目を見ることになる。弟子や友人たちが奔走し、それに対して馬琴がどう対応したか、が見どころになる。
理不尽に投獄された崋山のために弟子たちをはじめ多くの人が奔走し、崋山の登場はほとんどない。しかし病気を理由に牢から出られそうになった時、崋山自身がそれを辞退したあと、その理由を語る場面がある。
投獄されて気づいた大切な想い。それまで気づかなかった当たり前のことを空の青さに喩えて、弟子たちに託す。
しみじみと美しい場面。それを観ながら、この作品は山中崇史さんにとって代表作のひとつになるのではないか、と思った。
終盤には崋山ゆかりの人々と馬琴が出会う場面がある。
『八犬伝』を完結させたこともあって、ようやくそれまで表に出せなかった馬琴の心中が語られる。
それを聴く人々それぞれの想い。タスキを外し、真剣な面持ちで聴く者。半ば背を向けて複雑な感情を抑えようとする者。
満開の桜の下、ここまで描かれてきた馬琴と崋山の物語がやわらかに幕を下ろす。
派手さはないけれど、充足感に満ちた美しい物語だった。
盟三五大切 ーかみかけてさんごたいせつー
花組芝居
小劇場B1(東京都)
2022/06/01 (水) ~ 2022/06/08 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2022/06/04 (土) 19:00
四世 鶴屋南北による陰惨な悲劇をなぜか現代のお通夜風景に重ねて描いた怪作。
2009年の初演も面白かった記憶はあるが、今回の方が筋立てその他しっくり胸に落ちた。初演時の配役(小万:小林大介さん、三五郎:加納座長 など)との比較も興味深い。
陰惨な……と言いつつ、遊びや笑いも散りばめられて、重くなり過ぎずに楽しめる作品。開演前の座長による前説&解説からラストの撮影タイムまで、いや開演前の受付やスタッフの方々の服装、そして物販まで、こだわりと遊び心たっぷりの粋な時間を堪能した。
ふすまとぐち
ホエイ
こまばアゴラ劇場(東京都)
2022/05/27 (金) ~ 2022/06/05 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2022/06/04 (土) 14:00
ややデフォルメされた家族の閉塞的な状況を滑稽かつ辛辣に描く。ずけずけとものを言う姑のキヨと耐えかねて押し入れに籠ってしまった嫁の桜子を軸に物語話は進む。アクの強い登場人物たちに気持ちを振り回されつつ目が離せない。
押入れの襖を隔てて通じ合えない家族の関係は、それでも互いを思う気持ちがそれぞれの心の奥に潜んでいる。
抱えている思いの伝わらなさがおかしくも歯痒くて、「誰も逆らえない」ほど強気なキヨだけれど、悪徳商法や宗教めいたものに引っかかるのは寂しいからなのだろうか、とも思った。
相手には伝わらないままの思いが、病床のうわ言や某集会での独白で吐露されていくのがやらせないと同時にじんわり温かくて。
救いがなさそうでいて後味は悪くない作劇がとても好みだった。
ひとクセもふたクセもある登場人物を演じるキャスト陣のチカラワザは本当に見応えがあった。
黒塚~一ツ家の闇
流山児★事務所
ザ・スズナリ(東京都)
2022/05/13 (金) ~ 2022/05/22 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2022/05/21 (土) 14:00
古典をベースにした伝奇時代活劇という枠組に人の情と平和への希求を折り込んだ物語は、もろに自分のストライクゾーンど真ん中だったし、衣装も所作も殺陣もよくて、観ていて気持ちよかった。
扇を使った総踊りで始まり、鬼の出るという伝説のある峠を目指す侍二人の会話により物語の背景が語られる。
そのうちに領主である堀家と都の名家との紅花の取引話が持ち上がり、都へ効率よく荷を運ぶため、 バカ息子もとい惣領息子 月之介が鬼退治へと出向くことになる。桃太郎を気取ってお供を連れ、物見遊山気分で出かける月之介だったが……。
古典を下敷きとしていることもあり、ストーリーとしてはある種の定型とも言えそうだけれど、それがバシッとハマってものすごく気持ちいい。なかなかこうはできるもんじゃない。
何より登場人物の造形が見事で、それぞれに愛着が湧いてくる。
過去の因縁により20年後にもたらされた悲劇は、ときに笑いを交えて始まりつつ、しだいに緊張感を増して、見応えのある殺陣を連ねてドラマティックな展開を迎える。
活劇というだけでない、親子の情や復讐による悲劇の連鎖、争いのもたらす哀しみが胸を打つ。最後の陰陽師の述懐と当日パンフレットに書かれた文章。劇中で描かれた、争いが生む庶民の不幸。そしていまも戦争が続く現実を思う。
グリーン・マーダー・ケース×ビショップ・マーダー・ケース
Mo’xtra Produce
吉祥寺シアター(東京都)
2022/05/13 (金) ~ 2022/05/19 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
『グリーン・マーダー・ケース』のみ拝見。
5年前の初演を観たとき、もっと大きい劇場も似合うだろうと友人と話した。今回、天井の高い吉祥寺シアターの空間が虚構性の高い芝居によくハマっていた。それぞれ歪みや過去を抱える登場人物たちの描き出す濃密な物語がじんわりと切なく胸に響いた。
ベランダ
サスペンデッズ
雑遊(東京都)
2022/05/11 (水) ~ 2022/05/16 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
どうしようもない男たち(と女たち)によるシチュエーションコメディに、マスクの下で終始ニヤッとしてしまう。よく練られた戯曲とテンポのいい演出、手練れ揃いの役者陣が個性の強い登場人物たちを生き生きと演じて、あっという間の約100分だった。
花柄八景
Mrs.fictions
こまばアゴラ劇場(東京都)
2022/05/11 (水) ~ 2022/05/23 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
近未来の日本で、ネット上の電脳落語に押され、人が語る落語が衰退していく中、諦念にも似た希望を語る師匠と奇妙な弟子たちとのおかしくも切ないやり取り。劇中に登場する近未来の古典落語(?)や弟子たちの強烈なキャラクターなど遊び心も満載。
観終わってじんわりと温かい物が胸に残る。自分にとって大切な作品がまたひとつ増えた気がした。
君に会いたい
しゅうくりー夢
ザ・ポケット(東京都)
2022/03/02 (水) ~ 2022/03/06 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2022/03/05 (土) 18:00
元公安の訳あり刑事を主人公にしたハードボイルドシリーズのスピンオフ。入り組んだ人間関係もわかりやすく描く手腕はさすが。お馴染みのメンバーも初参加の方々もそれぞれに魅力的で人が人をを恋う想いの切なさを堪能した。できればリピートしたかったな。
光垂れーる
ぽこぽこクラブ
紀伊國屋ホール(東京都)
2022/03/03 (木) ~ 2022/03/06 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2022/03/06 (日) 14:00
とても面白かった。
23年前の台風被害により廃村同然となった山奥の村で、なぜか死者が蘇り始める。家族との再会や生者と死者の恋模様なども含め、生きること死ぬことの意味を問う作品。
……とはいえ堅苦しい話ではなくたくさんの笑いを散りばめて祭り=祈りの高揚を堪能した。
三月大歌舞伎
松竹
歌舞伎座(東京都)
2022/03/03 (木) ~ 2022/03/28 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2022/03/19 (土)
第一部『新・三国志』(横内謙介さん脚本、演出は猿之助さんと横内さん)を観てきた。
「人が飢えない、売られない、殺されない国」を夢見る劉備とそれを支える関羽、張飛。骨太な正論が物語を牽引し、さまざまな仕掛けと共に観る者を魅了する。舞い散る花びらを見上げて泣いた。
ジャバウォック【3月2日~3月3日公演中止】
劇団肋骨蜜柑同好会
小劇場 楽園(東京都)
2022/03/02 (水) ~ 2022/03/06 (日)公演終了
映像鑑賞
満足度★★★★
面白かった。象徴性とエンターテイメント性、キャラクターの魅力それぞれに見事。これ楽園でやったんだよなぁ。現地で観たかった。キャストが皆さんホント素敵だった。
エレファント・ソング
パルコ・プロデュース
PARCO劇場(東京都)
2022/05/04 (水) ~ 2022/05/22 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2022/05/07 (土) 17:00
見応えのある約100分だった。失踪した医者の行方を求めて、最後に診ていた患者に話を聞こうとする病院長。患者の奇妙な言動に翻病されるうちに……。院長と患者と看護師の3人のみの舞台は、緊張感とある種の切実さを湛えて観る者を惹きつけた。
コーラないんですけど
渡辺源四郎商店
ザ・スズナリ(東京都)
2022/05/08 (日) ~ 2022/05/10 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2022/05/08 (日) 14:00
面白かった。母と息子を入れ替わりつつ演じたり、時系列通りでなく過去や非現実(?)の場面が組み込まれて進む物語なのに混乱せずに観られたのは、脚本・演出の手腕はもとより3人のキャストの経験と実力によるところも大きいだろう。昨年の配信版のDVDも観たくなった。
ジョン マイ ラブ ージョン万次郎と鉄の7年ー
坊っちゃん劇場
坊っちゃん劇場(愛媛県)
2021/09/02 (木) ~ 2021/10/02 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
この舞台では、万次郎が漂流やアメリカでの生活を経て帰国した後の日本での様子を妻となった鉄と出会いや周囲の人々との交流を軸に描いていく。ヒロインの鉄をAKB48のメンバーが交代で演じ、歌やダンスで賑やかに綴りながら、新しい価値観を日本に根付かせようとした男の意思が胸に響く物語となっていた。
おてんばで縁談など見向きもしない鉄が、因習や偏見にとらわれない万次郎の明るい強さに心を動かされていく様子が瑞々しい。早くに母を亡くした鉄を慈しみ守ろうとする女中おクニの愛情とエネルギー、誠実さと温かさを滲ませる鉄の父、万次郎を引き立てようとした江川様の未来を見据える眼差し。そして地元の期待を背負って万次郎の私塾で学ぶ若者たちや下男となる竹蔵、英語の指導を懇願する福沢ら、万次郎のもとに集った若者たち。鉄の幼馴染 菊野の前半と後半での変化。攘夷論に染まって万次郎を敵視する鷹之丞まで含め、激動の時代に国の未来を思う真摯な若さを感じさせた。変わりゆく時代を象徴するのが、いくつもの言葉であった。民主主義・自由・平等、そして愛。万次郎がアメリカで学んできたのは英語や航海術ばかりではなかった。まだ日本には言葉すらなかったそれらの概念を若者たちに熱く語って聞かせる彼の姿には、鉄でなくても惹かれてしまうだろう。テンポの良い物語を軽快な楽曲やチャーミングなダンスで彩り、エンディングではペンライトが振られる舞台。けれどその核にあるのは激増の時代の片隅で生きた人々の息遣いと骨太なメッセージだった。