あと9秒で
ももちの世界
in→dependent theatre 2nd(大阪府)
2022/12/16 (金) ~ 2022/12/20 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
初日観劇。これまでのピンク地底人3号氏の作風とはガラッと変わった印象。何より、死者が出てこない(笑)ボクシング演劇と言いながら一人の難聴者の生き直しを描いたような作品だった。
芝居の最初、主人公とその友人の会話があまりにも棒読みというか、有り体に言うと下手くそで、これを2時間見せられるのかと驚いたのだが、慣れなのかなんなのか、すぐ気にならなくなった。しかし、耳のほとんど聞こえない人があんなにスムーズに声で会話できるものだろうか。と思っていたら、最後にネタばらしがあった。
最後に込めたメッセージは素晴らしい。しかし、途中の映画の話はどうにもモヤモヤした。聞こえないことを隠して合格しようとすることと、「IDを買う」ことを比較するには無理がある。聴覚障害者が聴覚テストのパターンを学習していい数字を出すのは、舞の海関が頭にたんこぶを作って身長制限を突破したのと基本的には変わらない。一方で「IDをかう」のは免許証偽造のようなものだ。それをあえて並べて比較した意図は?
そして、母親の感情がこの芝居にどう絡んでいるのかがいまいち分からなかった。クリスチャンの女性も、結局なんだったのだろう……という気がする。恋愛が描かれたわけでもなければ、それほど主人公に強い影響を与えたようにも見えなかった。主人公の内面はよく描かれていたが、周りの人物が浅かった。
いい作品だっただけに、もっと作り込めたらよかったのにという感じ。
手話裁判劇『テロ』
神戸アートビレッジセンター
神戸アートビレッジセンター(兵庫県)
2022/10/05 (水) ~ 2022/10/10 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
耳の聞こえない役者が手話、聞こえる役者が声で同時に台詞を言う。舞台上に表示されている字幕は、最初の数分間は気になったが、すぐ気にならなくなった。むしろ、役者の滑舌が悪くても何言ってるのかわかるので都合がよい。役者にとっては台詞が飛んだらカンニングできる一方、トチったら公開処刑という恐ろしいアイテムである。
まず、取り組み、着想は本当に素晴らしい。しかし、プロトタイプだなというのが率直な感想である。
手話の表現力は素晴らしいが、それだけでは演技ではない。台詞をただ読むだけでは演技ではないのと同じ。それだけに、宮川サキや赤鬼の田川徳子といった、関西の演劇界ではそれなりに名の知れた実力のある俳優を活かしきれていない演出をもどかしく感じた。手話者が中心で、発語の役者がただのアテレコ担当なら、それが役者である必要も、舞台にいる必要もない。
発語と手話の二人一役という演出方針も面白いけれど、この設定も活かしきれていない。後半では手話通訳?を演じる役者まで出てきていよいよ混乱する。ここだけ通訳という設定にした演出意図もよく分からなかった。
なにより、手話に合わせているせいか、声の演技が不自然すぎた。台詞を忘れたのかと思うほど不自然な間が空いたり、逆に異様な早口になったり。
そもそも、台詞に無駄な間が多すぎる。特に被告人。感情を込めろと言うと無駄に間を開けるのは経験の浅い役者に多いが、間を取ればいい芝居になるってものではない。被告人の声を当てた石原は、見ていて気の毒なほどやりにくそうだった。
手話だから仕方ないのかと思ったが、検察官役の宮川・森川はきちんと耳で聞いても違和感のない会話になっていた。声と手話の長さが違うなら、映画の字幕と同様、同じ長さに収めるよう調整するしかないと思うのだが。手話だけを見ている客には良いのかもしれないが、聞こえる客にとっては不自然でイライラする間であった。
全盲の役者(関場)がいて、芝居全体のナビゲーターのように機能していた。最初、役者にしては立ち姿がだらしないなと思ったのだが、パンフレットには子供の頃から全盲だとあった。ただ、この関場については意図が掴めない演出が多かった。あれは撃墜されて死んだ死者の亡霊か、はたまた法廷に住む魔物か?とも思ったが結局は被害者遺族というオチ。とても良い声をしていたが、ここにもまた無駄な間が多かったのはもったいない。これは手話関係ないか。
そして最後に被告人と被害者遺族を演じた役者どうしが抱き合う演出はややあざとく感じた。私の心が捻くれているせいかもしれないが。人はそんな簡単に他人を許せはしないぞう。
しかし、いわゆる福祉的演劇でなかったことは評価できる。ストーリーに無理矢理、障害者の権利云々を入れ込んできたら途中で席を蹴って退席するところだった。
カーテンコールの音楽が鳴って初めて音楽が一切無かったことに気付いた。しかし、違和感はなかった。舞台に音楽が不可欠というのは、健常者の勝手な思い込みなのかもしれない。
code:cure
壱劇屋
ABCホール (大阪府)
2022/07/29 (金) ~ 2022/07/31 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
いつもの壱劇屋とはなんか違う。何が違うとは言えないのだが。私が医療従事者だからだろうか。マイムや演出は素晴らしいのに、頭の中でストーリーにツッコミを入れてしまい、内容に入り込めなかった。シンプルに楽しめる芝居が観たいものだ。
定位
StarMachineProject
KAVCシアター(兵庫県)
2022/09/01 (木) ~ 2022/09/03 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★
試験的な取り組みとして、ワークショップ的にやるには面白いのかもしれない。
完成形として客に見せる内容ではないと思った。
きっと楽しいのはやっている役者だけで、観ている側は置いてけぼり感が強かった。
アルキメデスの大戦
東宝
シアタークリエ(東京都)
2022/10/01 (土) ~ 2022/10/17 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★
2020年にコロナで中止になった作品。
映画を観ずに舞台を観たので、内容は初見。
しかしこうした商業演劇でいつも思うのは、男優には演技力のある舞台俳優を使うのに、女優はアイドル出の、ろくに発声もできないような素人を使うのはいい加減どうにかならないだろうか。演技力以前に声が細くてほとんど聞き取れない。演技も棒立ちで学芸会のようだった。脇を固める小須田康人、奥田達士らベテランの舞台俳優達が芸達者なだけに余計に見ていて気の毒なほどだった。
神保悟志の山本五十六は、最初から違和感があった。後半になって本性を表すのだが、前半の中途半端な違和感のせいでその裏切りもインパクトに欠けた。もっとしっかり予想を裏切って欲しかった。
鈴木拡樹と宮崎秋人の若い二人は、あれはあれで良かったと思う。あの数式、しっかり覚えてその通りに書いているとしたら凄い。
芝居全体は、後半がグダグダであった。今の価値観で戦争中の人物に余計なことを言わせる演出は好きではない。まさに蛇足だった最後の20分が無かったら、もっと良い芝居だったと思う。